2025年11月20日
日本商工会議所
臨時会員総会
はじめに
わが国経済は、長期にわたり低インフレ・低成長が続き、賃金も低水準で伸び悩みが続いてきました。しかし、2024 年のマイナス金利解除や 2025年春闘における平均 5.25%の賃上げ、コア・コアCPIの3%前後といった指標が示すように、賃金と物価の好循環に向けた兆しが明確になっています。
しかし、その一方で物価上昇に賃金上昇が追いついておらず、生活者としての実感でもある実質賃金の確実な回復は、依然として最大の課題です。
デフレマインドを完全に払拭し、経済活性化に向けた好循環の基盤を整えるため、今まさに「再出発のとき」を迎えています。
他方で、少子高齢化の急速な進行という構造的課題に直面しています。
団塊の世代が 75 歳以上となる中、地域企業では後継者不足が深刻化し、事業承継は待ったなしの喫緊の課題として一層顕在化しています。実質成長率は持ち直しつつあるものの、日本経済の地力とも言える潜在成長力は、趨勢的になお低位にとどまっています。
また、国際的には、関税・輸出管理・産業補助・投資審査等の組合せによる通商環境の再編が進行しており、世界経済の不確実性が一段と高まっています。
このような地政学・通商リスクは、サプライチェーン全体、とりわけ中小企業・小規模事業者の経営にも大きな影響を及ぼすことが懸念されています。
私は3年前の就任時、「日本再生・変革に挑む」というスローガンを掲げ、日本再生には、変革の連鎖が不可欠であると申し上げました。この間、取引価格の適正化や中小企業のイノベーション・DXの推進、賃上げや事業承継など、あらゆる課題に現場との対話を軸に取り組んでまいりました。
成長型経済への転換を確固たるものとするためには、今後も絶えず「変革」に挑み続けることが不可欠です。
また、こうした不確実性の時代においては、規模や業種・業態を超えた企業間連携、民・官・学の連携強化、さらには行政区を越えた地域間連携の推進など、多様な主体が協働し、新たな価値を共に生み出し、共に栄える「価値共創」の考え方がますます重要になります。
取引適正化による大企業と中小企業の共存共栄、官民一体となった国内投資の促進、内需と外需を両輪とする経済構造の再構築など、わが国全体が一枚岩となって持続的成長を実現しなければなりません。
このような認識のもと、今期は「変革と価値共創による日本経済の再出発」をスローガンに掲げ、地域、ひいては日本経済の再出発に繋げるべく、全力で職責を果たす決意であります。
重要政策
課題への対応
今後3年間の活動では、次の 3 点を重点課題として取り組みます。
- 成長型経済の実現に向けた環境整備
- 変革と価値共創による中小企業・小規模事業者の「稼ぐ力」の強化
- 地域の稼ぐ力の向上による地域経済循環の推進
成長型経済の実現に向けた
環境整備
第一に、成長型経済の実現に向けた環境整備です。成長型経済を実現するためには、円安・原油高に伴う原材料や資源価格の上昇等によるコストプッシュ型インフレから、需要拡大によるデマンドプル型インフレへと移行し、好循環を持続させることが不可欠です。
好循環に向けた賃上げのモメンタム
最も重要なのは、賃上げモメンタムを持続し、物価上昇を上回る賃上げを実現することです。しかし、人手不足と最低賃金の大幅な引き上げが続く中、多くの中小企業では防衛的な賃上げを迫られているのが実情です。
自発的かつ持続的な賃上げを可能にする環境整備を政府主導で確実に進めるよう、当所としても、全国の商工会議所の皆様や他の経済団体と連携し、強力に働きかけてまいります。
また、賃上げ原資の確保の観点からは、価格転嫁など取引適正化の推進が欠かせません。「パートナーシップ構築宣言」企業は、私の就任時の1万6千社弱から現在では8万1千社を超えるまでに拡大しました。
今後は、宣言企業の拡大に加え、実効性の向上が重要です。
取引適正化は、大企業と中小企業だけでなく、中堅・中小企業間でも推進する必要があります。
とりわけ、労務費・エネルギー費・原材料費の上昇分の転嫁はなお不十分であり、価格転嫁の進展は、「道半ば」であります。当所としても、価格交渉力を高める支援策の拡充や、価格転嫁を社会全体で受け入れる商習慣の定着に向け、引き続き政府に強く求めてまいります。
成長分野への公的投資の拡充・推進による民間投資の喚起
次に、成長分野への公的投資を拡充し、民間投資を喚起することです。
DⅩ・GⅩ、経済安全保障に資するサプライチェーンの国内回帰、国土強靭化に向けたインフラ整備などへの公的投資は、企業の予見可能性を高め、民間投資を喚起します。
政府には明確なロードマップの提示と着実な実行を求めてまいります。
労働供給制約時代における人手不足への対応
人口減少と高齢化が進む中、わが国は労働供給制約社会を迎えています。
中小企業・小規模事業者は人手不足を克服するため、省力化の徹底、リスキリングによる人材育成、多様な人材の活躍推進など、「少数精鋭成長モデル」への自己変革を果たしていくことが求められます。
デジタルツール活用や機械化、地域で人材を育む取組みに加え、外国人材の受け入れ、女性・高齢者の活躍拡大も不可欠です。こうした企業努力を支えるための施策の充実を求めるとともに、持続可能な全世代型社会保障制度の構築に向け、給付と負担のあり方の見直しなど、就労意欲を高める制度改革を政府に働きかけてまいります。
経済安全保障とエネルギー安全保障の両立
次に経済安全保障とエネルギー安全保障の両立であります。地政学リスクの高まりに加え、関税施策や輸出規制により自由貿易体制が不安定化する中、貿易立国である日本が持続的に発展するためには、自由貿易体制の維持・発展が不可欠であり、価値観を共有する国々と連携しつつ、ルールに基づく国際経済秩序の維持・発展を粘り強く主導していくことが求められます。
エネルギー安全保障の観点からは、大原則である「S+3E」に国際性の視点を加えた「S+3E&G」に基づく政策を推進すべきです。特に原子力発電については、脱炭素と安定供給を支える重要なベースロード電源と位置づけ、安全性が確保された原子力発電の早期再稼働や新増設、リプレースを政府が主導して、着実に推進するよう求めてまいります。
変革と価値共創による
中小企業・小規模事業者の
「稼ぐ力」の強化
重点課題の2点目は「変革と価値共創による中小企業・小規模事業者の「稼ぐ力」の強化です。成長型経済の実現には、中小企業・小規模事業者が「変革」に挑み、「付加価値」と「生産性」を向上させ、「稼ぐ力」を強化することが不可欠です。新分野進出、DX・GX推進、知的財産の創造・保護・活用、海外展開等に果敢に挑戦しなければなりません。
また、スタートアップとの連携により、中小企業・小規模事業者のイノベーション創出を加速し、「価値共創」を実現することも重要です。
さらに、中小企業・小規模事業者の経営の自走化に向けては、事業承継や資金繰り等の伴走支援が欠かせません。
特に、事業承継の観点では、後継者不在による廃業が依然として多く見られます。これは、地域経済・雇用・技術継承に直結する問題であり、「事業承継税制の特例措置の恒久化」を強く求めてまいります。
事業承継を契機として、次代の担い手が新たな発想で企業変革やデジタルシフトを進め、長年蓄積された知恵やノウハウ、地域での信頼と組み合わせることで、より強く、魅力ある企業へと生まれ変わることができると考えております。
地域の稼ぐ力の向上による
地域経済循環の推進
重点課題の3点目は、「地域の稼ぐ力の向上による地域経済循環の推進」です。
人口減少下にある地域が持続的に発展するためには、良質な雇用を生み出す「稼ぐ産業」の育成と、若者・女性が「住みたい・働きたい・戻りたい」と思えるまちづくりを両輪として進めることが不可欠です。
観光分野では、歴史・文化・自然・食など地域資源を生かし、商品・サービスの高付加価値化によって競争力を高める取組みが広がっています。
観光が成長産業となるには、観光収益を地域全体に行き渡らせ、事業者や住民が恩恵を実感できる「持続可能な観光地域づくり」が必要です。
また、産業立地に不可欠な道路・空港・港湾などのインフラ整備に向けては、広域連携や組織の枠を超えた協働によって機能強化が進めば、新たな投資や消費を呼び込むことができます。
良質な資本ストックは、地域経済の力強い成長の基盤であり、インフラ整備は将来への投資です。
まちづくりでは、商工会議所が中心となり、暮らしとビジネスの場としての「エリア価値」を高める取組みが全国で広がっています。
住民や事業者が自分たちの地域に誇りと愛着を持てる「ローカルファースト」の視点から、民間主導・公民共創の地域経営を進めていくことが求められます。
こうした地域の取組みを加速するには、そこで暮らし、働く人の存在が欠かせません。
教育機関と産業界、企業間の連携を強化し、地域の産業人材を育てること、また、進学や就職を機に地域を離れた若者や女性が、域外で得た知見を持って再び地元に戻りたくなる魅力的なまちや雇用の場を長期的な視点で整備していく必要があります。
活動方針
商工会議所の役割、機能強化
これらの取組みを地域で推進するためには、各地商工会議所が中核となり、地域の成長を牽引していくことが求められます。その役割を果たすためには、商工会議所自身の機能強化が不可欠です。会員増強やPR活動の強化、青年部・女性会の活動推進、検定試験や保険・共済などの収益事業の拡大、デジタル化の推進、職員の能力開発・待遇向上、経営支援体制の強化に取り組んでまいります。
私は、「原点は対話である」との信念のもと、会頭就任以来、全国9ブロックを訪問し、経営指導員との意見交換を重ね、地域の生の声を伺ってまいりました。
各地商工会議所が先頭に立ち、様々な取組みを講じられていることを改めて認識するとともに、当所としても現場に即した運営や政策提言に努めてまいりました。
今期も「現場主義」と「双方向主義」を実践し、各地商工会議所及び会員企業の皆様との直接対話を重ね、寄せられた課題に対して、あらゆる機会を通じて政府へ力強く提言してまいります。
むすびに
商工会議所の最大の強みは、全国 515 商工会議所・126 万会員ネットワークと、会員の声に基づき具体的・個別的な課題を的確に把握できる点にあります。
課題先進国といわれるわが国において、一つひとつの課題を解決し、地域経済の活性化と日本経済の成長に向けて、皆様とともに挑み続け、中小企業や人が輝く地域・日本を創り、次代へと繋いでいく。それこそが商工会議所の進むべき道であり、果たすべき役割であります。
私はその先頭に立ち、全力を尽くしてこの使命を果たす覚悟であります。
以上
日本商工会議所
会頭 小林 健