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【最新!海外事情レポート】近年の日本企業の投資動向(ハノイ)

 本年2023年はベトナムとの外交関係を樹立して半世紀の節目を迎える。本稿ではこれまでの日越関係を振り返りつつ、近年の日系企業の投資動向がどう変化したのか、その背景の一端を共有したい。

 

◆日越外交関係と両国経済関係

 日本とベトナムとの外交関係は、ベトナム戦争終盤の1973年、パリ和平協定で米軍が撤退することとなった直後の921日に樹立したが、日本企業がベトナムに進出を始めるのはさらに20年ほど遅れてのことであった。

 1986年に第6回ベトナム共産党大会でドイモイ(刷新)政策が打ち出され、計画経済から市場経済の導入に軌道修正したことがきっかけとなり、政府開発援助の受け入れ、WTOASEANといった多国間協定の締結と国際市場への参画が、外国投資の流入の呼び水となった。当然日本のODAによる法制度整備支援が法令を国際標準に近づけ、外資にとって投資環境整備につながり、外国企業の流入に拍車をかけたことは言うまでもない。

 ハノイ日本商工会(現ベトナム日本商工会議所)が設立されたのは1992年(設立当時の会員数は26社)で、盤谷日本人商工会議所(1954年設立)、シンガポール日本商工会議所(1969年)、ジャカルタジャパンクラブ(1970年)、フィリピン日本人商工会議所(1973年)と比較しても一世代遅れていた。今でこそベトナムへの進出や市場参入を希望する日本企業は後を絶たないが、そのトレンドもそれほど歴史は深くないのである。

 

◆安い労働力を求めた製造業の進出からその後

 初期の北部ベトナムへの投資は、安い労働力を求めての労働集約型の産業が多かったと言える。衣類の縫製や製靴、自動車部品ではワイヤーハーネスや比較的加工度の低い部品などである。その後自動車産業や電気電子機器、工作機械の集積ができ、サプライチェーンを構築してきた。しかし、2022年度のジェトロの海外進出日系企業実態調査によると、ベトナム国内での現地調達率は3割台、しかも現調率の6割はベトナム進出外資企業からとなっており、ベトナム企業がサプライチェーンに参入するのは技術的・品質的にハードルが高い状況がうかがえる。

 ベトナムの経済規模は1990年のGDP65億ドルから2020年に3,661億ドルに30年で56倍にも急成長した(グラフ1:名目GDP)。この急成長の背景にはFDI(外国直接投資)の急激な伸びが挙げられる。FDI2003年の27億ドルから2021年には197億ドルと20年で7倍となっており、外資の流入が経済成長ドライバーの役割、さらにはベトナムの技術や品質の向上を担っていると言える(グラフ2:外国直接投資実現額)。

 そのため、計画投資省はじめベトナム政府は外資誘致を政策の評価基準とし、さまざまな投資誘致施策を実施している。これまで有利な投資インセンティブの供与が功を奏し、近年では地政学リスクを回避したい外資がベトナムに着目する追い風もあり、プラスワンの投資先として注目を集めるのに成功している。

 一方で、経済の歴史が浅く蓄積が少ないためベトナム国内に基盤産業が存在しないこと、急成長にインフラ整備が追い付かないことが課題として年々大きくなっている。投資を誘致するものの、その伸びに見合った裾野産業・産業人材の育成、工業団地整備、電力供給が不足していると会員企業からも指摘されている。

 今年の6月上旬、ベトナム北部はエルニーニョ現象による高温と少雨に見舞われ、家庭用の電力需要が増えたことによる電力不足が深刻になった。北部のある地方省では工業団地に50%の節電要請や、2日に1回終日停電の措置が取られ、生産活動に甚大な影響があった。5年前にも同様の事態があったものの、近年コロナ禍で電力不足は表面化しなかったため電力及び送電インフラの増強の手が打たれてこなかった。本来2021年に公表されるはずであった2030年までの第8次国家電力開発計画はようやく今年515日に首相承認が得られたばかりである。

 

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▲グラフ1:名目GDP

 

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▲グラフ2:外国直接投資実現額

 

◆近年の日本企業の投資動向の変化

 2022年のジェトロの調査によれば、今後1~2年のうちに事業拡大したい国・地域のランキングでベトナムはASEANトップの地位を獲得した。22年の日本からの投資金額は47.8億ドル、投資件数は581件と額は大きかったものの、1件あたりの投資額は減少傾向にある。近年JCCIの入会企業が製造業からサービス業にシフトしている背景には、投資の傾向が比較的少額投資で済む業種が増えてきたことがあると考えている。(グラフ3:日本の直接投資額と案件数)また現地企業への出資・株式取得額/件数も近年堅調であり、日系銀行が現地銀行に出資したり、日本の乳業メーカーや製薬会社が当地の同業者に資本参加する事例が報道されているのは、ベトナムを生産拠点のみならず有望な市場として捉えている証拠と言える。

 さらに、日系企業の電力インフラ及びその周辺産業への参入が見られる。ベトナムは2050年のカーボンニュートラル目標に向け再生可能エネルギーの割合を増やしていく意向である。このため、太陽光発電への資本参加やバイオマス発電事業への出資、木材チップ生産などにも参画している。またLNG貯蔵施設や風力発電などにも市場参入の機会をうかがっている。

 ベトナムでの外資と言えば、サムスンやLGなど韓国企業の存在感が強いが、日本のインフラ企業も金融機関も、中小企業でさえもしたたかにベトナム市場にどう食い込んでいくかを考えているようだ。

 

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▲グラフ3:日本の直接投資額と案件数

 

 

 (ベトナム日本商工会議所 事務局長 吉田 晋)