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【最新!海外事情レポート】動き出しそうな時計の針(香港)

  2019年、香港にとって不幸な出来事があった。国家安全維持法の制定に抗議した若者たちの暴動シーンが世界を駆け巡り、「香港=危険」というイメージが刷り込まれた。混乱は半年近くで収まったが、その後蔓延したコロナ禍の影響で日本のビジネスパーソンが香港を訪れるケースは皆無となり、多くの日本人にとって香港の時計の針は19年で止まっている。

 

 香港で登録されている日系企業数は19年当時と比べ減っているが、その機能をみると特徴がある(表参照)。地域拠点数、地域統括本部数は減少傾向にあるが、現地拠点数は増加している。中国本土に製造拠点を持ち香港で決済、資金調達等を行っている企業の中には、コロナの影響で香港が担ってきた機能を中国本土に集約する動きがあり、地域拠点数減の一因となっている。他方、香港の旺盛な内需を指向して拠点を増やす日系企業(現地拠点数)は増加傾向にある。

 

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 マツモトキヨシはコロナ禍の225月に香港に出店した。コロナ規制で日本に渡航できない香港人のニーズに応えていたが、最近は自由に日本に行けない中国大陸の旅行者需要も取り込んでいるようだ。また現地の報道によると239月にニトリが香港に進出するという。日本の外食チェーン店も香港での店舗を順調に拡大させている。ただ、こうした香港の旺盛な需要を自社の成長戦略に取り込もうとする動きは従前からあった。

 

 仙台に拠点を置く門間箪笥店は高級家具店として有名だが、日本国内の需要低迷からいち早く成長市場アジアに着目、上海や香港での販売に注力してきた。当初、香港のデパートスペースを活用した販売を展開していたが、一念発起、路面店に拡充することを決定した。同社の特徴は他人と異なりオリジナリティを持ちたがる香港人の気質を理解し、オーダーメイドによる販売に特化したことである。その結果、販売価格は日本のそれを遥かに上回り、一体1000万円を超える家具もあり、販売を順調に伸ばしているという。

 

 旺盛な内需といっても香港経済がコロナ禍で高成長していた訳ではない。そもそもの価格水準が日本と異なるのだ。例えばラーメン一杯の価格は、日本なら600800円が相場ではなかろうか。香港では通常100香港ドル弱(1香港ドル=約17ドル)、高いものになると120140香港ドル程度にまで跳ね上がる(写真参照)。当然賃料、諸経費等が日本より遥かに高いため単純比較はできないが、利益を出すための売上をしっかり取れるのが香港市場の魅力である。

 

 234月に香港政府が主催した香港視察外食ミッションに日本全国から19社が参加した。その中には、日本の低迷を香港の売上でカバーするために、生の香港を視察に来たという参加者もいた。低迷する日本市場から一歩抜け出すだけで違う景色が見えてくる。コロナの影響でビジネス展開先として止まっていた香港の位置付けが、見直されそうな予感がする。

 

hongkong-ramen.jpg▲香港のラーメン価格

 

 

(香港日本人商工会議所 事務局長 伊藤亮一)