(日本商工会議所の月刊誌「石垣」99年2月号 より)

 

中町商店会(岩手県江刺市)
歴史財産「蔵」をモチーフに新たな街づくりに挑戦

 

 人口約3万5000人の岩手県江刺市。近年、同市は過疎に悩まされていたが、現在、市内中心部で新たな街づくりが進められている。かつて北上川の船運で栄えた商人町である同地域に残された白壁の蔵を再生させ、魅力ある商店街づくりの中核施設にしようと積極的な取り組みが行われているのだ。「1998年4月にオープンした『黒船スクエア黒壁ガラス館』により来街者が増加し、われわれの商店街づくりに拍車をかけている」と語る中町商店会の依田静児会長にお話を伺った。

 このガラス館は、中町商店会の一角に97年に市内の若手経営者11人が集まり設立したまちおこし会社株式会社黒船が、新築したもので、無償で譲り受けた蔵を改装したガラス工房と一体となっている。

▼ガラス館オープンで増加する観光客
 「ガラス館のオープンは、『自分たちの商店街づくりは間違えていなかった』という自信につながりました」と依田会長は話す。「90年に通りの拡幅工事が始まったことを機に、活性化計画策定委員会を設置し、どのような街づくりを進めていくかについて話し合った結果が、白壁、蔵を活かした和風の通りだったんです」。
 同商店会では、94年に「中町商店会町づくり協定」を作成し、街並み統一化を実施している。店舗改装の設計図が出来上がると、理想的な建物であるかどうか委員会で徹底的に審査されているのだ。こうした商店街づくりを進めていたからこそ、ガラス館オープンにより波及効果が生まれたのである。
 さらにこうした動きを後押しする形で、江刺商工会議所、県と市の関係機関、中町商店会、黒船等で商店街等活性化推進委員会(委員長・菊地強江刺商工会議所専務理事)を組織し、中町商店会を中心に蔵を生かした地域づくり「蔵の街ルネッサンス事業」が展開されている。昨年8月にオープンした音のミュージアム「キンコン館」をはじめ、「蔵出市」、蔵をモチーフに街づくりを進める全国の自治体関係者を招いた「蔵シンポジウム」等を開催した。
 「当初、店舗の改築を進めることによって、来街者が増えるとは考えていませんでした。ガラス館のオープン、活性化推進委員会の活動は、予想以上のお客さんを増やしただけでなく『歴史と文化が共存できる商店街にしたい』というわれわれの夢を、現実に近づけてくれたのです」と依田会長は笑みをこぼす。

▼活性化策の原点は高齢者対策
 この商店街の特色はこれだけではない。歴史のある街だけあって、お菓子、豆腐、酒、味噌、醤油等の製造・販売業者が多いことだ。「手作りの商品を作れるということはわれわれにとって強みになっています。ガラス館効果による思いがけない観光客の声を聞くことで新製品づくりが進み、既存の商品だけでなく、新商品が店先に並びはじめているのです」と依田会長は話す。
 さらに、少子・高齢化社会への対策も進められている。「江刺市は4人に1人が65歳以上で、高齢化率が県内で最も高い地域なんです。だからこそ、高齢者が安心して生活できるような街にしていかなくてはなりません。今、ガラス館人気でお客さんが増えていますが、われわれは、地域の人たちが利用しやすい商店街にするために活性化事業を始めたわけです。現状に甘えず、原点をかえりみながら高齢者に優しい商店街づくりを進めていきたい」と依田会長は言う。
 現在進められている道路の拡幅工事では、歩道建設が注目できる。歩道の幅を広くするだけでなく、雪が降り、通りが凍っていても高齢者が安心して通れるよう道路との段差を小さくしている。さらに来街者が憩え、かつイベント等が開催できる歩行者優先道路(蔵みち通り)も完成間近だ。

▼息の長い商店街づくり
 依田会長が目指すのは「息の長い商店街」だと言う。「お年寄りが安心して歩け、子供の声がし、ここに来ればいろいろな情報が聞け、世間話をしながら買い物ができる。常にコミュニティを感じられる商店街にしたいのです。今、江刺市の中心市街地活性化の中心として中町が注目されています。われわれが成果をあげることにより、江刺全体の街づくりの指針につながっていけるようにがんばっていきたい」。
 中町は昔、商業で栄えた街。その象徴が明治時代につくられた多くの蔵であった。全国には、中町と同様に輝かしい歴史を持っていたものの、その後開発が遅れ、衰退している街が多くある。自分たちの歴史財産をひもとき、個性ある街づくりを進めていくことは、商店街活性化の最重要課題といってよいだろう。古きよきものを全面に押し出した街づくりへの挑戦が、ここ中町で始まっている。

 
 



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