(日本商工会議所月刊誌「石垣」97年7月号より)

 

西新道錦会商店街(京都市中京区)

キーワードは「生活ネットワーク」

西新道錦会商店街振興組合
京都市中京区壬生下溝町51−41
理事長 安藤 宣夫

◎ポイント
・ハンディ端末機で決済を簡単にしたプリペイドカード
・FAX情報提供サービス
・「ご用聞き」を兼ねた各戸訪問によるマー ケティングリサーチ

 


 京都の壬生寺付近に位置する、西新道錦会商店街は、商業の枠を大きく超えたコミュニティづくりで消費者を引きつけている。完成度の高いハンディ端末機で決済できるプリペイドカードは、使いやすい上に事務も効率化できるとあって商店主側にも好評だ。「生活ネットワーク」をキーワードに商店街をリードする安藤宣夫理事長に話を聞いた。

▼次世紀へ生き残りを賭けたカード開発

 四条通と西新道通が交差するところでタクシーを降りると、細い一本道にずらりと商店が並んでいた。向かい合う商店同士、和やかに言葉を交わしている。
 全国でも珍しいハンディ端末機で決済するプリペイドカード「エプロンカード」、そしてファクシミリによる情報提供サービス。情報を提供するだけでなく、配達の注文もファクシミリで受け付ける。これらの事業のコンセプトについて聞くと、安藤理事長は「活性化の目標は、かなり遠くへ置きました。21世紀になっても生き残っていけるように、息の長い事業をと考えているんです。ですから、今やっている事業も実は通過点です。第1段階でプリペイドカード、次はファクシミリ網による消費者ネットワークの形成、ゆくゆくはイントラネットも導入して、コミュニティを組織していきたいと考えているんですよ」と切り出した。イントラネットとは、いきなり気宇壮大な話である。しかしカード、ファクシミリ網、その他多くのソフト事業を成功へのサイクルに乗せて、組合全体の気運も盛り上がっている。
 第1段階のカード開発に当たっては、メーカーの既成システムに頼らず、商店街に合った独自のシステム開発を目指した。成功のカギは、おかみさんたちのリサーチである。「デパートで、カードを使いますやろ。すると、ずっと向こうの方まで行って端末に通して、また戻ってくる。この待ち時間がイヤやと言うんですな」と安藤理事長。SEも参加させて検討を重ねた結果、ハンディ端末によるカード決済にたどり着いた。配達先でも利用できるなど消費者・商店主双方に好評である。
 「配達して、そこで即カード決済。届けた品物と金額も記録できるから、間違いもなくなる。ええことづくめですわ」と、安藤理事長は笑顔を見せた。

▼「ストリート」意識からの脱却

 第2段階のファクシミリ情報提供サービスは、単にだらだらと情報を流すのではなく、利用者が希望の情報を取り出せるようにしたシステムで、始動したばかり。利用者は月800円でファクシミリの機械をレンタルし、欲しい情報を番号で指定して取り出す。その他に、コミュニティの実情に合わせたグルーピングもある。「例えば、少年野球のチームが団員に連絡したければ、うちに来て一斉にファクシミリを流すわけです。その他にも情報提供を受け付けています。商業ベースのもの以外は、安くお引き受けしていますよ」と安藤理事長は話す。
 商店街は単なる「ストリート」ではない。街を「面」として捉え、この生活密着型商店街の役割をコミュニティづくりの中心と位置付けての事業展開なのである。これらの事業の根底に流れる理念は、「自立と共同」だという。「大型店ができて、この商店街でも多くの店が影響を受けました。しかし、影響の度合いは個店格差が大きく出ましたよ。共同意識のない店、現状に注意を払わない店などが大きな打撃を受けたんです」と安藤理事長。

▼多彩なソフト事業で事業費を捻出

 安藤理事長は、「組合費はただ払うわけやない。その金額だけ、振興組合に貸しをつくったと思うて元を取らなアカン」と組合員にハッパをかけて、ソフト事業をどんどん提案させる。その提案の中から実行に移される多彩なイベント、ソフト事業は全て独立採算である。黒字分は、振興組合の事業費として商店街に再投資されていくという仕組みだ。
 そして、毎年行われる「消費者訪問」では、周辺の家庭300軒を手分けして訪ね歩く。これも、リサーチ目的や顧客をつかむチャンスと捉えて参加意欲が高い。単なる商業にとどまらない発想が、商店街に大きな効果をもたらしているのである。
 大きな発想は、大きな負担を伴うものでもある。その好例が、修学旅行生の販売実習受け入れだ。京都市から依頼を受けての受け入れであるが、見知らぬ生徒を店に置くことの負担は小さくないはずだ。「しかし、地域の一員でもあるわけですから、協力していかんと始まりませんわ。それに、実習で置いた子がまた来てくれるとうれしいですしな」と笑う安藤理事長。自店のことばかりに汲々としない、「共同」の視点がなせる業である。
 インタビュー後に商店街の写真を撮っていると、米屋の主に戻った安藤理事長に行き会った。買い物用のカートに寄りかかるようにして買い物に来た老女のために、米をカートに入れ、よもやま話に興じる。「おおきに。おばちゃん、気ぃつけて帰りや」。土地に根付いて暮らす人々が求めて止まない、温かく親密なコミュニティの姿がそこにあった。



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