(日本商工会議所月刊誌「石垣」2000年3月号より)
巣鴨地蔵通り商店街(東京都豊島区)
活気と人情あふれる古き良き商店街
巣鴨地蔵通り商店街振興組合 東京都豊島区巣鴨3-35-2 理事長 木ア 茂雄 氏 ◎ポイント |
魚屋、八百屋、畳屋、漢方薬屋、呉服屋、味噌屋……。ひと昔前には、どこの商店街にも見られた商売だが、最近の東京ではあまり見かけなくなった。そんな昔ながらの商売が今も息づいている商店街が「とげぬき地蔵」で知られる巣鴨地蔵通り商店街である。「おばあちゃんの原宿」と新聞記事で取り上げられたことをきっかけに、今では全国から訪れる人を迎えるようになった。「古いものを大切にしていきたいです」と語る木ア茂雄理事長にお話を伺った。
▼二面性を持ち合わせた商店街
巣鴨地蔵通りは約800メートルのほぼ直線道路で、振興組合は、その性格から3つのサービス会に分かれている。巣鴨駅に近い第一支部・仲見世会は、高岩寺(とげぬき地蔵尊)を訪れる参拝客相手のお店が中心となる。歩道と車道の段差をなくし、商店の値札表示を大きな文字にするなど、年配者への配慮がなされている。反対に巣鴨駅から一番遠い第三支部・四丁目サービス会は、周辺住民の生活を支える商売が多い。自転車で買い物に訪れる人や学生をよく見かける。真ん中の第二支部・中央名店会はその中間的な役割を果たしている。「ぶらりあるきの商店街なんです。とげぬき地蔵にお参りにきた人が、商店街を散歩しておもしろいと感じ、何度も訪れる『リピーター』が多いのが特徴ですね」。
▼昔懐かしい商店街
商店街を歩くと感じるのは「香り」と「声」だ。焼き鳥のタレの焦げる匂い、パンの焼ける香りが漂う。匂いに引かれてその方向に目をやると、店のオバさんが「いらっしゃい!」と威勢のいい声をかけてくる。こんな昔ながらの光景が商店街にはある。「補助金を使って街並みを整備しないかという話はあるんです。でも、この不況下にあえてお金のかかることをしなくてもいいと思います。それに、昔ながらの街並みや雰囲気を大切にしていきたいですね。年輩の方にとっては昔懐かしい感覚、逆に、若い人にとっては新鮮さがあると思います」と木ア理事長。ハード面での取り組みを拒否しているわけではなく、「景気が良くなったら(街並み整備も)考えたいですね。でもその時は巣鴨のイメージに合ったレトロな街並みにしたいです」と語る。一方で、現在ホームページ開設へ準備も進めている。
▼交通の利便性がにぎわう秘訣
とげぬき地蔵尊では、毎月4、14、24日に縁日が開かれ、約4万人(休日と重なるとその倍)の人出でにぎわう。商店街は歩行者天国となり、200を超える露店が所狭しと並ぶ。このにぎわいは、もちろん一朝一夕のものではなく、マスコミ報道によるブームだけでもない。「門前町の商店街はほかにも数多くありますが、巣鴨は何といっても交通の便がいいんです」。確かにJR山手線、都営地下鉄三田線の巣鴨駅まで歩いて5分とかからず、都電やバスの停留所も近くにある。また、70歳以上の都民に支給され、都内の都営・民営バスと都営地下鉄が無料になる「シルバーパス」を利用できるのも、「おばあちゃんの原宿」を後押ししている。ただ、年配者のイメージとは裏腹に、商店街の調査では客の5割が40〜50代の主婦で、3割がそれ以上の年配の人、残りの2割が若者だという。
▼悩みは若者の信仰離れ
「学生さんから取材を受ける機会も多く、お参りに行くかを尋ねてみます。すると『行く』という答えは返ってくるのですが、よく聞いてみると友達との初詣などのイベントとしてお参りをとらえているようです」と将来の「信仰離れ」に理事長は不安を抱いている。「今の若者が親の世代になった時を想像すると少し怖いですね」。こうした若者向けにインターネットホームページの開設準備も進めている。
また、マスコミの報道により、商店街の売上もアップしているかと思うと実情は少し異なるようだ。「やはりこのところの不況で、お客さんの財布のひもは固いです。人は多くても、それが売上には直接結びつかず、悩みのタネですね。もちろん、比較的単価の安い菓子店などは潤っていますが」。観光客の増加で、困るようになったことがあるという。「旅の恥はかき捨てということわざがありますが、マナーの悪いお客さんが増えました。商品を見たあと元通りに返さない、ひどい時は商品に傷をつけてしまうお客さんもいます。そんな時は『お買い上げいただかなくて結構です』とお引取り願うんです」。ルールの守れない人には、例えお客さまであっても理解を求める、そんな人情味あふれる姿勢も、この商店街の魅力の一つだ。
品物を買うだけなら、デパートやスーパーがある。ここ巣鴨で買い物を通してお店の人の明るい声や笑顔を見ていると、地蔵通り商店街の昔懐かしいあの雰囲気を求めて訪れる人は、今後も後を絶たないと感じた。