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【最新海外事情レポート】韓国における新型コロナウィルス防疫事情(韓国)

 昨年4月に韓国に赴任して最初の「ソルラル」と呼ばれる旧正月休暇で1月下旬に日本へ一時帰国した。その際、テレビでは早くもコロナウィルスについて取り上げられていたものの、家族も友人も遠い存在としてあまり気に留めていないような印象で、周りも自分もマスクを着用していなかったと記憶している。連休明けの1月28日に出勤した際に韓国人の同僚から「今日から外出時は必ずマスクしてください」と言われ、東京で既に従業員のマスク着用を実践していた店舗があったこと、1月27日の羽田空港で空港職員の大多数がマスクを着用していたことを思い出し、ずっとマスクを着用していなかったことに大いに反省したものである。

 

 その後、言いつけを守って移動中のマスク着用や手洗い・消毒励行を続けていたものの、2月中旬頃までは飲み会等も普通に開催されており、感染者数自体も国内で30名程度であったため、どこか他人事であったかもしれない。2月18日に「新天地イエス教会」信者であった韓国国内31番目の感染者に端を発する大邱地域を中心とした集団感染・感染拡大が発生するまでは…。

 

 2月19日以降に毎日のように感染者数が倍増する事態に対応するため、韓国政府は2月23日に危機警報を最高段階の「深刻」に引き上げ、狭い室内空間で開催される行事や多くの人が密集する行事を自制することを勧告した(この勧告は3月22日から強化された「社会的距離の確保」にグレードアップした)。2月23日は日曜日であったにもかかわらず、その日の22時過ぎに当地日本大使館から本件についてのメールが流れたため、重大な事態となったものと感じたが、結果的に翌日以降、SJCのほとんど全ての会議・イベントが延期・見送りされることとなった。その時の個人的な肌感覚としては、直接政府の発言を原文で見聞きしたためか、韓国人の方が日本人よりも事態を深刻に受け止めていたように感じた。

 

 感染者数も3月10日にイタリアとイランに追い抜かれるまでは韓国が中国に次ぐ2番目となってしまい、日本にいる色んな方々からもご心配いただき、日々、戦々恐々としながら感染者数の推移を見守っていた。そうした状況下で3月9日からの日本の水際対策強化措置が始まり、4月からは韓国への全ての入国者が原則2週間自宅隔離(違反した場合、1年以下の懲役か1,000万ウォンの罰金。外国人には強制国外退去の可能性あり)が義務となる。日本人駐在員の多くは収束するまで事実上一時帰国不可という状況であり、筆者を含め、韓国への赴任者は2、3カ月に一回は日本へ一時帰国する前提で来ている人が多く、生活設計が大きく変わる人も多かったようである。

 

 3月後半以降、感染の中心地がアジアから欧米へと移行したが、3月10日時点で7,513名であった韓国国内の感染者数は2カ月近く経過した5月3日時点で10,801名と、1.5倍以内に収まっているが、積極的な検査によるクラスターの洗い出しと徹底的な追跡・隔離が奏功したものであると思われる。

 

 SARSやMERSでの苦い経験を有する韓国においては、特にMERS流行時に診断キットの承認に時間がかかってしまったために多くの死者を出してしまったという教訓から、民間業者が開発した新型コロナウィルス診断キットを申請から1週間で最初の承認をするなど、初動が非常に早かった。加えて、徴兵された医大卒の若者の多くが大邱等に派遣され、検査業務等にあたった(一般兵は退役軍人とともにマスク配給に向けた業務で活躍)と言われている。

 

 韓国では日本のマイナンバーにあたる住民登録番号(外国人は外国人登録番号)にクレジットカード利用履歴や携帯電話のGPS情報等が紐づけられており、街中に設置されている監視カメラの映像の情報と組み合わせると、ある程度の行動履歴が政府当局に把握されてしまうという。

 

 実際に、ソウル市など各自治体のホームページには、直近2週間の新規感染者の行動履歴が公開され、「何日に誰とどこで食事をした」、「どの便のどこの席に座っていた」などの情報が開示される。また、毎日のように携帯電話がけたたましい音を立てて鳴り、中央政府や生活圏の各自治体から「2メートルの距離確保!」、「当区で何番目の感染者発生、注意!」、「この施設へ行かれた方は至急電話してください!」など日々警告が飛び交っている。そのため、濃厚接触者として思い当たる人は申告しやすいし、当該施設を避けて行動するなどの対策も講じやすく、何よりも万が一自分が感染した場合に他人に非難されるような行動の抑止につながっていることは確かであると思われる。

 

 韓国の住民登録番号制は朝鮮戦争後も続く北朝鮮との緊張状態を背景として導入・強化されたと言われており、検査体制についても、SARSやMERSの被害に遭わずに済み、徴兵制のない日本にそのまま応用することはできないものの、ある程度参考にできる部分もあるかもしれない。

 

 前述の「社会的距離の確保」は当初4月5日までとされていたものが4月19日まで延長され、4月20日以降は若干緩和され、ついに5月6日から「生活防疫」に移行された。日本でも報道されたとおり、4月15日に実施された韓国の総選挙では与党が大勝したが、実際に投票に行かれた方からは、選挙実施にあたっての防疫管理にも様々な配慮がなされていたと聞く。実際、選挙当日の二週間後にあたる4月29日、実に72日ぶりに韓国国内の市中感染者がゼロとなり、その後も感染者が低水準で推移している(表1参照)ことから、5月3日の時点で「生活防疫」への移行を発表した。

 

 

 

 「生活防疫」は、基本的な距離の確保と防疫指針の遵守の下、原則として会食、会合、外出など日常生活を許容するものであるが(表2のように各施設・状況別に31項目にわたって細部指針がまとめられている)、韓国政府は「状況が悪化すれば、いつでもまた強化された『社会的距離の確保』に戻す」としている。SJCとしては、引き続き気を引き締めて関連する防疫指針に従いながら、各種活動を順次再開できればと考えている。

 

 

2020721日追記)

 その後、ソウル市内の繁華街の遊興施設でのクラスターからソウル首都圏の複数エリアの遊興施設、飲食店、物流倉庫、コールセンター、マルチ商法、宗教法人(教会・寺院等)等のクラスターへ伝播するとともに、医療機関等での院内感染も複数発生しながらも、5月1日~7月20日の81日間での平均の新規感染者数は37.6人であった。

 最近は海外からの流入者の感染者が多くなっており、7月19日の24時間での新規感染者26人のうち、市中感染者は4人で、市中感染者が一桁になったのは実に約2カ月ぶりであった。7月20日の24時間での新規感染者45人のうち、市中感染者は20人で、その過半数は療養施設での新たなクラスターであり、引き続き注視していくこととしている。

 また、5月9日に新型コロナ感染が確認され、その後の疫学調査過程で職業と移動経路を偽った塾講師が7月20日に逮捕されたほか、韓国入国後の二週間の自己隔離違反で日本人が拘束・起訴された事例も発生している。韓国政府によるコロナ防疫関連の強制力は日本に比べて格段に強く、今後韓国への渡航を予定されている方におかれては十分ご留意いただきたい。

(ソウルジャパンクラブ 常務理事 橋爪 孝徳)