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豪州の賃金水準、生活コスト等について(シドニー)

日本も含め世界中で渡航制限が緩和されていることを受け、国を跨いだ移動が復活しつつある。豪州では2022年7月より豪州への入国に際して全ての規制を撤廃しており(2023年1月現在、一部の国を除く)、ビジネス、観光含め日本からの入国者も増えている。

海外との渡航が再開された背景もあってか、海外での物価の高さや日本との賃金水準の差を題材としたテレビ番組やネット記事を多く見かけるようになった。それと相まって、日本から豪州への「出稼ぎ先」といったテーマでの特集も多く見受けられる。確かに最低賃金も高く、日本と同じ環境であれば稼げる国ではあるが、賃金のみを紹介し、掛かるコストについてはあまり取り上げられていないような気がすることから、今回は、豪州の生活コストについて書きたいと思う。

 

【高止まりするインフレ率】

 豪州では高いインフレが続いており、オーストラリア準備銀行は昨年12月6日、政策金利を0.25ポイント引き上げた。利上げは2022年5月から8カ月連続となり、政策金利は過去10年間で最高となる3.10%となっている。

また、オーストラリア統計局によると、直近2022年第4四半期(10~12月)の消費者物価指数(CPI)は前年同期比で7.8%上昇し、1990年以来最も高い上昇率を記録する等、インフレ圧力は依然として強いと思われる。

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▲オーストラリア政策金利推移(過去10年間)出典:各種報道資料

 

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▲オーストラリア消費者物価指数推移

出典:オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics, ABS)

 

【豪州の最低賃金】

 インフレ率は上記のとおりであるが、これに伴い賃金も上昇傾向である。

豪州の最低賃金は2023年1月現在21.38豪ドル(約1,949円、1豪ドル=91.2円)となっており、日本に比較して非常に高いことが分かる。また、経済成長とともに人出不足が続く豪州では、人材の確保が課題となっており、これに伴い最低賃金では人材が集まらないといった状況がある。時給30豪ドル(約2,736円)でアルバイトを募集しても集まらないなんて声も聞くところである。仮に時給30豪ドルで1日5時間、週5日勤務であれば、月に3,000豪ドル(約273,600円)稼げる計算である。

 

【豪州の生活水準】

 豪州では物価も高いが賃金も高いといったところであるが、では、実際に豪州に出稼ぎにきた場合、どの程度コストがかかるものか、一例を紹介したい。もちろん節約といったこともできるので、あくまで一例であるが、日本のように激安店等はあまりないことを前提としたい。また、掛かるコストの主だったものを「衣食住+医療」で考えたいと思う。

 まず「衣」であるが、これについては日本と同等の価格水準かと思われる。当地では、ユニクロや無印良品が展開されており、日本よりは割高であるが日本と同じものを購入できる。また、その他のファストファッション(ZARA、H&M)も数多く出店していることから、安価にすませることは可能である。

 次に「食」であるが、総じて日本より高い水準である。個々に挙げるときりがないが、例えば有名なビッグマック指数から価格を見ると、豪州では6.7豪ドル(約611円)、日本は410円となっている。また、通常の飲食店(例えばフードコート)で昼食を購入した場合でも、10豪ドル以下のものはまず見かけない。したがって、昼食を購入するのに毎回1,000円以上かかる計算となる。また、居酒屋やレストラン等は一層高くなり、日本の感覚で気軽に飲み食いできる環境ではない。

 そして「住」であるが、これが非常に高価であり、諸外国の中でもトップクラスである。例えばシドニーを例に挙げて賃料を計算すると、家のグレードにもよるが1Bet room(日本の1Ldk)でも週500豪ドル(週約45,600円、月額約198,142円)は最低でもかかる見込みである。もちろんこれより低い賃料の物件もあるが、通勤距離やセキュリティー、築年数等を考慮すると、一般的な水準かと思われる。そして賃料は毎年上がっており、契約の見直し時に大家から値上げ交渉されることも屡々である。

 最後に「医療」である。どんな健康体でも通院や歯科治療は避けて通れないものであるが、この医療費が日本に比較して非常に高い価格となっている。

豪州では日本の健康保険のような制度で「Medicare」というものがあり、豪州の市民権または永住権保持者等が保有できる。しかし、駐在員や学生、一時滞在者は保有できないため、全て自己負担となる。その為、万が一に備え民間の保険に加入することが一般的であるが、この保険代も高い金額となっている(加入内容によって異なる)。

 

【結局豪州は稼げるのか】

 ここまで豪州の賃金およびかかるコストを説明したが、結局のところ、豪州に出稼ぎにきた場合稼げるのかといった疑問が残ると思う。結論は「稼げる」であると言える。ただし、あくまで「稼ぐ」であって「儲ける」ではないことに注意したい。稼ぐにあたっては粉骨砕身して働くと同時に、相当なコストカットも必要である。上記のとおり住居費がコストで高いウェイトを占めるわけだが、ワーキングホリデーや一時滞在者はシェアハウスに住む方も多くいる。これにより賃料を引き下げる他、外食を控えるなど散財をなるべくしない工夫もしている。

 したがって、豪州で就労=稼げるといった簡単な縮図ではないと考える。

 

【海外で働くこととは】

色々な報道の仕方もあり、また、豪州に「出稼ぎ」に来る方がいるのも事実である。ただし、賃金を稼ぐためだけに来ているのかといったことまで考える必要がある。海外で働くということは、英語力も必要であることに加え、その国に適応するため様々な努力をしなければならない。また、海外でしか得られない経験、日本との違いを理解すること等、学ぶことは沢山ある。このことが非常に貴重な経験であり、賃金はその後の話であると、個人的には思うところである。

一概に海外は簡単に稼げるといった考えが、間違って浸透することなく、相当のコストもかかることを理解し、それでも海外での経験を積みたいといった方が、今後も増えることを期待したい。

 

以上

(シドニー日本商工会議所 事務局長 千葉 雅崇)