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【海外最新事情レポート】ゼロコロナ政策に揺れる中国(上海)

 今年の4~5月の2カ月間のロックダウンを経験した上海では、夏以降に市中感染はポツポツ見られる程度であったが、11月に入ってからは徐々に市中感染の発生が見られるようになった。2020年1月末からの武漢市のロックダウン、今年の上海市のロックダウンを経験した中国では、経済への影響などから大規模な都市封鎖にはしないものの、オフィスビルやマンション、あるいは、小区と言われる居住エリアを限定で封鎖する措置は、全国で2万カ所とも3万カ所と言われている。日本で報道された11月末からの上海をはじめとする各地で発生したゼロコロナ対策に対するデモが天安門事件の再来のようになるのかというと、それは少々違うものであると考えている。

 

 

上海市内の規制状況

 上海で利用されているスマホのアプリに健康码(ジエンカンマ)というものがある。中国全体では行程卡(シンチェンカ)というアプリもあり、これらはAlipayやWeChatと紐付けされており、さらに携帯電話番号、本人情報に結び付けられている。また、オフィスビル、ビル内の事務所、レストラン、コンビニなどのそれぞれが場所码(チャンソーマ)というQRコードを申請して持っている。オフィスビルに入るには、そのビルの場所码をスマホでスキャンすると、PCR検査の陰性結果が出てから24時間、48時間、72時間以内という表示が出て来て、それをビルの保安担当者が入る時に確認して入館が認められる。もちろんこの表示を出すためには、オフィスビルや街角にある無料PCR検査場で検査を受けないとならず、最近では48時間以内の陰性証明を求める場所が多くなっているため、2日に1回は検査を受ける必要がある。

 その他にも感染者が発生した場合には、感染者が済んでいるマンションや小区が封鎖され、感染者は集中隔離でコロナ専門病院に陰性となるまで隔離となる。また、密接者(濃厚接触者)のいる住宅も3日間程度の封鎖となり、密接者のいる住宅では3日連続でPCR検査を行い、陰性であることが証明されて出勤や買い物に行けることになる。

 

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          ▲上海で利用される健康码(ジエンカンマ)  ▲中国全土で利用される行程卡(シンチェンカ)

 

上海市外との往復が難しい

 市外の行き先の省や都市によって規制に違いがあるので、筆者が市外に出た時の経験を記述する。江蘇省で開催の日中国交正常化50周年記念イベントなどに参加するため、上海総領事館、日系企業の方々と9月下旬に淮安市、10月下旬に揚州市と二度ほど高鉄(新幹線)を利用して江蘇省の都市を訪問した。まず、高鉄の駅に入るには、48時間以内のPCR陰性証明が必要である。PCR検査の結果は検査を受けてから数時間~10時間程度かかるので、前日には検査を受ける必要がある。当日受けた検査結果が出ないために予約した高鉄に乗れない事態も駅では時々見受けられる。

 到着した先では、江蘇省は上海市とは異なる独自のアプリ(蘇康码)で管理しており、そのアプリをスマホにインストールするとともに、到着した駅を出る前にPCR検査がある。ここでは過去2週間に訪問した省・都市が確認できる行程卡により、感染の発生した都市には行ってないことが確認される。PCR検査結果が出るまで足止めされることはないが、どこのホテルに宿泊するかなどを事前にスマホで登録するなどの手続きもあり、かなり煩雑な作業であった。さらに、到着したホテルでPCR検査が必要であり、上海で受けたPCR検査結果は関係ないという状況であった。ホテル滞在中は毎日PCR検査を受けた。

 江蘇省から上海に戻る際には、高鉄の駅で蘇康码による48時間以内のPCR陰性をチェックしないと駅に入れず、上海に到着すると改札出口で、今度は上海の健康码のチェックを受ける。1泊2日で健康码における上海の陰性結果が72時間以内であれば、そのまま移動できるが72時間以上となっている場合には、駅のPCR検査場で検査を受けないと駅の外に出られないことになる。

 

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             ▲江蘇省揚州市大明寺訪問           ▲江蘇省で利用される独自のアプリ(蘇康码)

 

中国の規制緩和と上海の新たな規制

 11月11日に国務院が発表した新型コロナウイルスの予防・抑制業務のさらなる最適化のための 20 条の措置を決定した。これを受け、上海市では13日に市政府として、これまで海外から中国に入ってくる人々の隔離措置を7+3日(集中隔離+健康観察)から5+3日にすることになり、また、高・中・低リスク地域を高・低リスクにすることなどが発表された。健康観察と言っても自宅のある小区の居住委員会が自宅に戻ることを認めないことが多く、実際にはこれまでも10日のホテル隔離であった。2日間の短縮は朗報ではあるが、大きな変化はないところである。

 また、11月24日からは、上海市では上海に入って来た人(上海居住者が市外から戻って来る場合を含む)は、5日間はレストラン、スーパー、ショッピングモール、娯楽施設には出入りできないが、公共交通機関の利用やオフィスへの出勤は可能という措置が取られた。上海に戻って5日以内の場合には、スマホの健康码の画面に赤い文字でそれが表示されることから、市外への出張や江蘇省のゴルフ場でのコンペが中止になるなど、大きな影響となっている。

 

商工クラブの活動

 上記のとおり、省を跨ぐ移動については大変厳しい規制がある。また、政府組織が主催する会合は、感染対策によりほとんどがオンラインでの開催となり、9月に入ってようやくリアルでの会合開催も見られるようになった。しかしながら、会場に集まる人数は50人以内、開催日前の3日間はPCR検査を受けてスマホに陰性証明があること、また、開催2週間前から体温が正常であることを記録し、正常であることを誓約書として提出するなどの手続きがあった。また、会食があるイベントは非常に少なくなっていた。

 一方、民間が主体となる講演会やセミナーでは、100人を超える人が集まる場合でも9月ごろからは開催可能となった。商工クラブでは、8月末に100人超でのゴルフコンペと懇親会の開催、また、厳しい移動手続きの中で9月上旬に広西チワン族自治区の南寧市にASEAN博覧会の視察団を派遣した。10月にもリアルでの講演会や交流会などを積極的に開催し、9月に開催できなかった日中国交正常化50周年、及び、商工クラブ設立40周年イベントを11月29日に実施した。11月24日からの上海来訪者5日間規制は、流入する感染を徹底的に抑え込み、感染の可能性の低い人が低い地域で活動することは、上海市が経済を維持するためではないかと筆者は考えている。

 

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▲日中国交正常化50周年&商工クラブ設立40周年記念 イベント夕食会

今後の動向

 今後の感染状況がどのようになるか筆者には分からないが、世界の趨勢がwithコロナとなっていく中で、中央政府関係者からゼロコロナ政策を見直しにつながるような発言もあった。また、中国国内の各国商会組織も中央政府に意見書を提出している。中国経済をこれ以上落ち込ませないためにも、早期の政策の見直しが望まれるが、来年の両会(全人代と全国政協会議)が終了するころまでは、全体には規制を緩和する方向にあると思うが、感染状況によって規制を強化したり、緩和したりしながら進むのではないだろうか。一つには中国では、各国で一般的となっているmRNAワクチンの自国での開発が遅れており、いまだに一般的ではないということもあろう。

なお、本稿を執筆している本日(12月5日)から、上海市では市内の公共交通機関(地下鉄・バスなど)では、健康码による48時間以内のPCR陰性証明の提示を求めないことが昨日発表された。

 

<追記>

 12月7日夜、上海市政府より、濃厚接触者の隔離を集中隔離から、条件を満たす場合には自宅隔離でOKとすること、また、市外から上海に入って来て5日以内の人の行動制限などについて、8日午前零時から緩和するとの措置が発表された。このように中国での政策は、発表翌日に適用するなど変化が早くその情報収集と対応については、常に気を付けていなければならない。

 

<追記2>

 12月12日現在、追記で記載した12月8日からの緩和措置による影響とは思えないスピードで上海市内においても感染が拡大している。既に、筆者の知り合い2名が9日と11日に抗原検査やPCR検査で陽性が判明。また、会員企業の中にも感染者が発生したと2社が報告してきた。現在は、陽性となっても無症状、軽症者は自宅で様子を見るようにとのことから、これまでの密接者、密接者の密接者まで追いかけて隔離するような方法はとらないことになり、感染に対しては自己防衛する以外に方法はなさそうである。この感染拡大は中国全土に広がっているようであり、特に、北京では8日からオフィスへの出勤の人数規制などもなくなったが、感染者が多くなり、自主的な在宅勤務が多いと聞いた。また、レストランや商店も閉めているところが多く、街が閑散となっているとの報道もされている。いよいよ中国もwithコロナということになると、経済や市民生活への影響がいつまで続くことになるか不明である。

 

<追記3>12月19日現在

先週から感染爆発と言っていいくらいに感染が拡大しており、上海日本商工クラブの事務局スタッフでは、本日現在で8人中4人が陽性、2人は家族が陽性となって在宅勤務中になった。商工クラブのある上海国際貿易中心ビルでは、各社の出勤率は10%くらいではないかと思えるほど、人が少なくなっている。感染の大きな要因として、中小レストランでは、感染に気付かない、あるいは、症状があってもPCR陰性となっているスタッフが出勤し、調理や食器を取り扱うことが怪しそうに思える。

日系企業の知り合いもレストランで食事して、翌々日から喉が痛くなり、さらに発熱という方が数名いた。喉が痛いときにはまだPCR検査や抗原検査で陰性だったとのことだか、発熱の翌日には陽性になり、感染が判明するというケースが多いようである。筆者自身は先週までの2週間は、会合等により市内ホテルでの夕食が多く、通常のレストランに行く機会がなかった。もし、それにより感染から逃れているとすれば、ホテルなどのように大型食洗器で食器を洗う、また、従業員の健康管理を真面目に行っているレストランを選ばないと、外食は感染の危険が大きいということになりそうである。

北京は感染のピークは過ぎたとも言われ始めている。上海の感染のピークは今週と来週あたりかもしれない。あるいは、さらに感染が拡大することもありそうだ。

 

(上海日本商工クラブ 事務局長 中村 仁)