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【海外最新事情レポート】砂糖と玉ねぎの品不足と価格高騰から考えるフィリピンの食料事業(マニラ)

 2022年6月末にボンボン・マルコス新政権が発足した。マルコス大統領は自ら農業大臣を兼任し、「食糧安全保障の強化」を政権の最重要テーマと位置付けている。一方で、8月中旬より砂糖と玉ねぎの深刻な品不足と価格高騰が続いている。

 

1.砂糖の品不足に対する状況

 2021年末に発生した大型台風(フィリピン名:オデット)や天候不順により、砂糖の供給不足が続いている。当地の国民生活に必要不可欠な炭酸飲料の生産にも大きな影響が出ている。飲料大手のコカ・コーラ・ビバレッジズ・フィリピン、ペプシコーラ・プロダクツ・フィリピン、ARCリフレッシュメンツの3社は8月16日に共同で「飲料業界全体として精製糖不足に直面している」と声明を表明した。

 また、同日、フィリピン農業省傘下の砂糖統制局(SRA)が規定量とは別に、30万トンの輸入を許可する砂糖令に大統領承認なしで署名した同局の局長等が辞任する等、政治問題まで発展している。このような状況を受け、マルコス大統領は、9月13日に国産砂糖の輸出の禁止および、精製砂糖15万トンの輸入を許可する砂糖令に署名した。

 

2.玉ねぎの品不足に対する状況

 フィリピンでは日本でも一般的な白玉ねぎと、ニンニクと同じくらいのサイズの赤玉ねぎの2種類が流通している。国内の玉ねぎ栽培は赤玉ねぎが多く、9~翌3月で植え付け、12~6月収穫期となっている。政府としても、生産農家に対し、2022年は総額1億ペソ(1ペソ≒2.5円)以上の予算を計上しているが、7月初旬にはすでに白玉ねぎの国内在庫が枯渇しており、輸入品に頼っている状況が続いていた。

 しかし、輸入白玉ねぎもすでに首都圏のスーパーから完全に姿が消え、筆者の行きつけの日本食レストランでもカレーなど白玉ねぎを使用する料理がメニューからなくなってしまった。

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▲スーパーマーケットの玉ねぎ売り場

※写真はマカティ市中心部のスーパーマーケットの玉ねぎ売り場。

以前は半分が白玉ねぎであったが、今はすべて赤玉ねぎとなっている。

 

3.フィリピンの食糧自給率

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▲フィリピンにおける農産品の自給率(%)

出所:フィリピン統計庁(PSA)資料より、ジェトロ作成。なお、2020年のサトウキビの自給率はPSAの資料に

   明示的に記載がなかったため、「-」としている。

 

 上記の通り、日本でもなじみのあるバナナやパイナップルは輸出量が多く、100%を超える水準で推移をしている(本稿のテーマからは逸れるが、今年6月にホセ・カスティリョ・ラウレル5世駐日フィリピン共和国大使(当時)が小売業界などに対して、バナナの値上げに協力を求める要請をした。マニラの方が、東京でフィリピン産のバナナを購入するより高いこともある)。

 地方の州で仲買業者が大量に砂糖を倉庫に備蓄させているのが摘発されるなど、砂糖の品不足や価格上昇には仲買業者などによる買いだめや違法な蓄積が行われている可能性を指摘する声は多い。

 また、玉ねぎについても度々フィリピンへの密輸が行われたり、玉ねぎと偽ってニンニクを輸入されていたりと、問題が多く、政府が頭を悩ませている農産品である。

 

4.マルコス政権の農業分野に対する姿勢

 マルコス大統領はフィリピンの農業について、研究開発から小売りまでフード・バリューチェーンを再構築し、十分な食料供給を確保するために、輸入を必要最低限に抑え、フィリピン国内での生産を拡大するとしている。

 また、マルコス大統領の実姉のアイミー・マルコス上院外交委員長は、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)の批准に反対の立場を取っており、「農業部門に関する問題に適切な取り組みがなければ、批准することはできない」と明言しており、農業政策が他の経済政策にも大きな影響を及ぼしている。

 直近では、フィリピンも食品価格上昇が著しく、スーパーマーケットに行くたびに野菜や肉の価格改定に驚く。以前と同額とまではいかないまでも食品不足が解消し、安心して購入できる日が戻ってくることを望む。

 

(フィリピン日本人商工会議所 事務局長 小関 友寛)