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【海外最新事情レポート】豪州での生活と日本との違いについて(シドニー)

 前回執筆をさせていただいた際には豪州のコロナ対策をテーマとしたことから、依然、オミクロンがここ豪州でも猛威を振るっているものの、今回は豪州で住んでみて知ったことおよび日本との違いをテーマにご紹介したいと思う。なお、記載の事項は豪州のニュー・サウス・ウェールズ(以下、NSW)州を中心に記している。

 

【キャッシュレスサービスの浸透】

 シドニーに赴任した際に最初に驚いたことの一つとして、現金で支払いをしている人をあまり見かけないことであった。当地ではデビットカードによる決済が支流であり、各銀行のカードで支払いを済ますのが一般的である。中には現金での支払いが出来ない店もあり、変な話、現金は持たずともカードさえあれば問題ない社会となっている。日本でもPay Payなどの決済サービスが増えているが、屋台や公園の売店といった所までカード決済が支流な状況を見ると、いかに豪州のキャッシュレスが進んでいるかを認識できる。

1.png ▲写真のスーパーマーケットではカード決済のみのレジスターしか置いていない

 

【コロナ追跡アプリの義務化】

 コロナウイルス発生以後、豪州では各州がそれぞれコロナウイルス追跡アプリを導入している。NSW州でも本システムが配備され、スーパーやデパートの他、飲食店、小売店全般でも入店時にアプリでチェックインをすることが求められる。昨年12月までは、これに加えワクチン接種証明書の提出もこのアプリで行う必要があり、翻って言えば、スマートフォンを持たなければ、どこの店舗にも入れないといった実情がある。日本でもcocoa アプリが導入されているが、あくまでインストールは推奨であり、アプリがなくとも買い物や飲食が自由にできる点が大きな違いであると考える。

 なお、上述のデビットカードもスマートフォンに連動している方も多く、豪州ではスマートフォンさえあればどこにでも行けるが、反面、忘れた場合は何も出来ない怖さも兼ね備えている。

 

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▲NSW州のCheck-inアプリ。ワクチン接種証明書もインストールできる

 

 

 

【PCR検査から迅速抗原(RAT)キット検査へ】

 昨年末から感染が拡大したことにより、当初NSW州政府はPCR検査の受診を広くアナウンスしたが、日々感染者が増え、比例して受診する住民も増加したことにより、事実上PCR検査が輻輳した。そのため検査を受けれない人は自宅療養をするしかない状態が続き、打開策として迅速抗原検査(rapid antigen test(RAT)検査)を自身で行い、検査結果を州政府に登録する制度に変更された。しかし、このRATキットも品薄で手に入らず苦情が相次いだことから、1月24日より一部の者を対象に無料配布が開始された。また、学校が本格的に夏季休みから明ける2月を目途に州内の学校に500万回分のキットが提供され、教員および生徒は週に2回RAT検査を行うこととされた。このようにNSW州ではPCR検査から自身で行うRAT検査へ移行している。

 

3.png             ▲RATキット         ▲陽性結果を自身でNSW州政府のサイトで登録

 

 

【日本との違いについて】

 当然ではあるが、実際に海外で生活してみると、考え方や物事への対応が日本と大きく異なることが多い。今回はオーストラリア(NSW州)における上記の3点を例示的にご紹介したが、日本と豪州のどちらも経験した身から言えば、どちらの制度が正しいといったことは言えないというのが本音である。

 例えば、キャッシュレス化は確かに便利であるが、デビットカードはクレジットカードとは異なり支払い時に本人確認を行わないため、仮に紛失してしまった場合、発見や停止までに第三者に悪用されるリスクも大きい。

 また、スマートフォンさえあれば大概のことは対応できる一方、スマートフォンがない場合、何も出来ない懸念も同時に兼ね備えている。スマートフォンはあくまで機械であることから故障も当然ながら想定されるもので、万が一、外出時に故障してしまった際は、アプリも起動せず、キャッシュレスと一体化していた場合は支払い決済もできないといった状態に陥る。

 RAT検査についても、陽性反応が出た際には、自身でNSW州政府のホームページから陽性登録を行うものであるが、これは、検査結果の報告を国民に委ねているものであり、陽性者がその登録を怠った場合や失念した場合は、陽性者のカウントに反映されない事態も考えられる。その場合は、正確な数値を把握できないことにも繋がるため、報告義務違反者には$1,000の罰金を科しているが、現実に取り締まることは難しいのが実態である。

 ただし、日本との違いを知ることは非常に重要であり、他国ではどうなってるのか、日本はなぜこの制度を続けるのか、日本で普及しない理由は何故か、といった疑問を常に持つことが必要であると考える。

 今後、益々国際化社会に進むにあたり、日本の常識に捉われることなく、かつ、海外の考え方をそのまま模倣するでもなく、世界に視野を広げ、日本にあった新しい制度や取り組みを随時導入していくことが肝要であると切に思う。

 

(シドニー日本商工会議所 事務局長 千葉 雅崇)