平成13年12月
日本商工会議所


地球温暖化対策に関する問題点と課題について

  


温室効果ガス排出量の国別削減目標の公平性等について


 1992年に採択された「気候変動枠組条約」の具体的目標を定めたものが、1997年に第3回の同条約締約国会議(COP3)において採択された、「京都議定書」です。
 「京都議定書」では、先進国全体で、2008年から2012年の間(第1約束期間)までに、温室効果ガスの排出量を1990年の水準より5%削減することを目標にしています。

 目標削減率は、日本が6%、米国が7%、EUが8%と、数字だけでは一見平等の負担のように思われがちですが、実質的には以下のような事情があり、公平な負担とはとても言えないものとなっています。

@日本の場合:
 
2度にわたるオイルショックの経験を経て、わが国は、国をあげて徹底した省エネルギーへの取り組みを行ってきました。その結果、最終エネルギー消費については、特に産業部門において80年代に70年代を下回り、73年を100とした場合に90年で93、99年においても105と概ね横ばいで推移しています。
 わが国の場合、
産業界をはじめとして、京都議定書の基準年である90年までに、すでに省エネルギー努力等により、相当の二酸化炭素排出量削減を実現していたのです。このため、わが国が今後さらに温室効果ガスを削減するためのコストは、米国の約2倍、EUの約1.3倍がかかると言われています。(一部には、日本が目標達成(森林吸収分を差し引いた分)に必要とするコストは、EUが目標(▲8%)の削減を実現するための対策コストの10倍以上にもなるという試算もあります。)
 また、京都メカニズムにおけるクリーン開発メカニズム(CDM)に用いられる公的資金については、ODAの流用は除外されており、世界最大の援助国であるわが国にとってはこれも不利な条件となっています。

A米国の場合:
 二酸化炭素排出量では、全世界の約4分の1、先進国の約4割を米国が占めています。京都議定書では、先進国全体の温室効果ガス削減目標を5%としていますが、その約半分は米国の削減によって達成されるものです。したがって、米国が参加しなければ地球温暖化防止対策としての効果は半減してしまいます。その米国が、未だに京都議定書への不参加の態度を変えておりません。また、米国の場合、もともと(90年)の排出量が、EUの約1.5倍、ロシアの約2倍、日本の約4倍と極端に多いため、国内の理解が得られず抵抗が強いため、京都議定書の枠組への参加の可能性は、極めて薄いものと思われます。

BEUの場合:
 
京都議定書に定める基準年(90年)は、東西ドイツの統一が実現された年であり、ドイツはその後、旧東ドイツの旧式の工場や設備の閉鎖・廃止、エネルギー転換などにより経済効率を高め、年率約2%の経済成長を達成しつつ、同時に年平均約2%の温室効果ガス排出量の削減を実現してきました。この結果、ドイツは第1約束期間までの目標値が▲21.0%のところ、99年ですでに▲15.0%を実現しています。
 また、英国については、同目標値▲12.5%のところ、主として石炭から天然ガスへのエネルギー転換によって、99年ですでに▲14.0%を達成しています。
 ドイツと英国の2カ国で、EU全体の二酸化炭素排出量の約半分を占めている
ことから、EUについては、第1約束期間までの目標の達成は、日本や米国とは比較にならないほど容易であると言えます。(EU全体でも5.5%の削減を達成済み)

C途上国の場合:
 京都議定書では、温室効果ガス排出量の削減は、まず先進国において取り組むこととなっており、将来的(2020年)には、全世界の二酸化炭素排出量の約半分を占めることが予想されている発展途上国については、何らこの枠組みへの参加についての約束がなされていません。こうした途上国の参加なくしては、温室効果ガスの削減は実効性を持ち得ないものとなります。

目標達成のための温暖化対策の影響について


 わが国が、京都議定書に定める削減目標を達成しようとした場合に、どの程度の規模の対策が必要でしょうか。身近な例で試算してみますと、次のとおりです。

 わが国の京都議定書によるCO2目標削減量は、90年の排出量(12億2,380万トン)×6%=7,343万トンですが、これに加えて、90年以降の同排出量増加分は99年時点で8,360万トンあり、仮に2000年以降、排出量を横ばいと仮定してみても、目標達成のためにはこの合計値=15,703万トンの削減が必要となります。
 また、森林吸収分(シンク)として削減が認められる3.7%=4,528万トンを差し引いたとしても、目標削減量を達成するためには、15,703−4,528=11,175万トンの削減が必要となります。これをエネルギーに換算するとすれば、原油換算で3,902万klの削減を行う必要があります。
この数値を例えていうならば、
@日本の全世帯におけるテレビ、照明器具、冷蔵庫、冷暖房および給湯の年間使用量(約4,410万kl)の約10ヵ月半分

A日本のすべての自家用乗用車の年間運転量(約5,400万kl)の約8ヵ月分

B日本のすべての鉄道、船舶、航空の年間運転量(約1,225万kl)の約3倍

C日本のすべての産業部門の操業(約19,700万kl)の約2ヵ月半分

などに相当します。
(注:この試算では、今後の経済成長率を含めておらず、仮に年率2%の成長を達成するとすれば、2010年には90年比20%の温室効果ガス排出量の増加が見込まれ、上記の約2.5倍
の規模の対策が必要となります。)
 

わが国における二酸化炭素の部門別排出量の推移について
 

 わが国の1999年度の二酸化炭素排出量は、1990年度比で6.8%増加しています。
これを部門別に見ますと、産業部門はほぼ横ばいで0.8%の増加となっておりますが、運輸部門では23.0%の増加、民生(業務)部門では20.1%の増加、民生(家庭)部門では15.0%の増加となっており、運輸・民生部門における増加が非常に大きくなっております。
 したがって、わが国が、京都議定書に定めるような温室効果ガスの削減目標を達成しようとするならば、この運輸、民生部門の削減が不可欠です。そして、国民ひとりひとりの理解と取組みが、これら部門の削減を実現するための鍵となります。勿論、産業界も、自主行動計画等に基づいて、技術開発、技術導入、管理体制の強化などにより、徹底した温室効果ガス削減の努力を行っておりますが、すでにその努力も、乾いた雑巾を絞るに等しいところまできています。

 

今後のわが国における温暖化対策の進め方について

 地球温暖化の防止は、地球規模で実を上げることが重要であり、そのためには、世界各国がこぞって参加し、応分の負担を誠実に実行することが必要不可欠です。したがって、米国が参加するなど、国際的にみて、公平かつ実効のある取り決めの履行が保証されるまでの間は、ひとりわが国のみが、実効のあがらない国際条約の枠組の中で苦吟し、臍(ほぞ)を噛むことのないよう、細心の注意が必要です。したがって、それまでの間は、わが国の取り組みは条約の義務付けによるのではなく、その枠外で自主的に行うべきであると考えます。
 京都議定書における遵守制度についての法的拘束力に関する議論は、先送りされましたが、それが、仮に今後とも維持されたとしても、京都議定書による温室効果ガスの削減義務は、条約上の義務であることに変わりはなく、わが国が6%の削減を達成できなければ、国際的に非難を被るとともに、国内的にも条約優先主義を採るわが国憲法下においては、強制してでも目標を達成すべきという議論が出てくることは必定と思われます。その時になって枠組を脱退するとなれば、国際的非難は一層厳しいものとなるので、見通しのないまま今批准をして参加するか否か、十分慎重に責任ある判断をすべきであると考えます。

 前述のように、わが国にとって、京都議定書による削減目標を実現するためには国民生活に多大な影響を及ぼす対策を必要とする一方、米国不参加のため温暖化防止効果はほとんど期待できないことになります。
 地球温暖化の防止は、真剣に取り組むべき課題ではありますが、こうした
実態をきちんと把握したうえで、国民、産業界、自治体、国が一体となって、それぞれのレベルでできることをきちんと行っていくことが重要でありましょう。そのためにも、行政府、立法府におかれては、本問題の実情を広く国民に説明いただき、国民的議論をつくしたうえで、国民全体で取り組めるような体制を作り上げていくことが、是非必要であると考えます。