政策委員会提言

「真の地方分権の実現を通じた日本の再生を目指して」

平成14年2月21日
日本・東京商工会議所

1.中央集権体制から真の地方分権体制へ

 わが国の中央集権体制は、明治維新からの富国強兵策のもとで築き上げられ、戦後も受け継がれてきた。特に戦後のわが国は、廃墟の中から20世紀の奇跡ともいえる経済復興とその後の高度成長を成し遂げた。この過程においては、国家の主導による政治・経済・社会の各システムの運営が、有効かつ効果的に機能してきたといえる。特に国家官僚主導による政策運営が経済再建と先進国へのキャッチ・アップに果たした役割は大きく、また「国土の均衡ある発展」をめざした開発計画や種々の平等化政策が、地方の発展や国民の平均的な所得向上に大きな成果をあげたことも事実である。

 しかし、国内外の環境は大きく変わった。第1は、目覚しい経済成長の成果である。戦後のわが国は、世界でも最貧国並みの生活水準であったが、現在は1人当りGDPでは米国に準ずる豊かな国へと大成した。しかし、このような豊かさの陰では、従来の平等化政策が勤労者の向上意欲を阻害するなどの弊害も認められるようになってきている。また、少子高齢化社会を迎え、社会保障をはじめ適切な対応ができなくなっている。

 第2は、ドメスティックな時代からグローバルな時代への転換である。1989年のベルリンの壁崩壊以降、それまでの2極構造が崩壊し、世界レベルでの市場経済化が一挙に進行した。この結果、鎖国的な自国至上主義はもはや許されない状況となっている。

 第3は、わが国の成長力が急速に鈍化する一方、賃金のみならず諸コストの高い国として世界中から認識されることとなった。また、貿易収支では黒字の漸減傾向が認められるなど、ファンダメンタルズ面の問題が生じており、国力の衰退が懸念されるようになっている。

 このような状況を脱するため、時代の変化に対応するものとしてわが国の政治・経済・社会の仕組みを再構築することが今求められている。そのためには、特に政治・行政システムの面では、官主導から民主導への転換、護送船団方式から市場経済への移行、平等化政策の是正などを図るとともに、過度な中央集権行政からの脱却と政府依存意識の払拭が必要である。

 即ち、国・地方を通じた小さな政府の実現、そして国が我が国の運営の主役であった「中央集権体制」から、地方が自立して、地域の実情に合った運営を行う地方が主役となる「真の地方分権体制」への大きな転換を実現する必要がある。

2.真の地方分権の理念

 真の地方分権の基本的な理念は、自主と自立である。

 そのためには、第1に、それぞれの地方自治体が住民の創意と工夫を取り入れ、行政サービスやなすべき総合的な開発計画等を含む地方の整備方針や計画を自ら策定・実施していかなければならない。中央の画一的な指導による特色のない地方から、「地方間競争」を促進することにより、各々が特色を持つ地方に自らを改革する必要がある。

 第2に、自立の原点は、財政的に自立することにある。今日の地方における財政悪化の主因が、地方での「親方日の丸意識」による放漫な支出にあることからも、歳入に合わせた人的・物的コストの削減、効率的な行政運営を図っていくことが求められる。また、費用と効果を明確にして、その最適化を図らなければならない。

 第3には、地方の整備方針や計画、財政状況などをディスクローズするとともに、住民の意見を極力取り入れ、希薄化してきているコミュニティ意識の復活と、地域住民の郷土愛の精神を醸成していかねばならない。

 こうした真の地方分権を確立していくためには、住民により身近な地方自治体が情報の透明性を確保しながら、受益と負担のわかりやすい行政サービスを提供することにより、無駄を省き効率的な行政を実現していく必要がある。

 このため、これまで以上に地方自治体のトップは、明確な意思、実行力、先見性を持ち、行財政情報の積極的な開示を行って、住民へのアカウンタビリティに応えることが重要である。同時に、住民サイドにおいても、行政に対する関心を高め、住民自治への積極的な参画と貢献に努めることが求められる。

3.真の地方分権の体制確立のために

(1)行政組織の改革

  @小さな政府の確立

 まず、国と地方の役割分担を明確化するべきである。基本的な考え方としては、「補完性の原則」(注1)に則り、国の役割は、どうしても地方では担当できないもの、あるいは特に国でなければできないものに限定すべきである。

 具体的には、国の役割は、外交・防衛・司法・通貨など国家基盤の運営・維持に不可欠な分野、通商・国土保全・教育・エネルギー政策等の国家基本政策分野、社会保障などナショナルミニマム(注2)の設定とその財源保障など国民生活全体の利益に係わる分野、基幹的社会資本整備など後述する道州間にまたがる国家的プロジェクト等に限るべきである。産業分野については、規制改革をさらに進め、市場原理の徹底を図るとともに、中小企業やベンチャー企業の育成等については、行政の関与が必要な場合には、地方が主体的に行っていくべきである。

 また、ナショナル・ミニマムについては、特に社会保障のセーフティネットが、現在および将来にわたってわが国経済の実力以上の高い水準に設定され、かつ、国民皆福祉・国民総平等化の理念を背景に、個人の所得等の実情が反映されることなく、一定の年齢層や地域に対して画一的かつ一律の保障を進めてきた結果、必要以上の援助がなされてきたことも否めない。今後も最低限のセーフティネットが必要ではあるが、その対象は、地域や年齢ではなく、原則として個人(家族)に着目して進めていくべきである。

 さらに、ナショナル・ミニマムの整備水準については、その水準の引き下げを含め、財政的にも持続可能な水準について国民の合意を得るとともに、それ以上の付加価値の実現については、基礎自治体でそれぞれの住民の合意と負担の下に行い、その競争に委ねるべきである。

(注1)補完性の原則:

 ヨーロッパで地方自治制度の原則として普及しつつある考え方で、事務事業を政府間で分担するに際しては、まず基礎自治体を最優先し、ついで広域自治体を優先し、国は広域自治体でも担うにふさわしくない事務事業のみを担うというもの。

(注2)ナショナルミニマム:

 国家が国民に対して保障する最低限の生活水準のサービス

  A基礎自治体の再編と充実

 地方分権の中核は基礎自治体であり、地方分権を担うにふさわしい行財政基盤の強化と効率的な行政サービスを実現していくためには、その再編と充実が最大の課題となる。このためには、規模の拡大が必要であるが、その際の基礎自治体の規模は、地域差もあって一律とはいかない。しかし、地方分権の受け皿となる地方自治体における行政基盤の強化と業務の効率化の観点からも、市町村合併特例法の期限である平成17年3月までに、政府の目標である1,000の実現に向けて、市町村合併を促進し、今後10年以内に可能な限り「自立し得る自治体」として今後一層の仕事と責任が付与できる人口30万人以上のものを目指して合併が促進されるべきである。

 こうして現在の大都市を含め、中小都市の合併を推進し、「自立し得る自治体」を確立することにより、最終的には全国で300市程度に再編成されることが望ましい。

 また、基礎自治体は原則として、通勤可能地域を1単位とするべきであり、まとまった規模での地方自治が困難な離島や山間地域が町や村として残ることは止むを得ない。そして、これらの地域での行政運営・財政支援などは、後述する新設の道州において実施されることが望ましい。なお、市町村合併の促進策として、各種のインセンティブを整備するべきである。

  B道州制の創設

 基礎自治体(市)が新しい地方分権の中核となるが、市町村合併が推進され、「自立し得る自治体」が整備された段階においては、現行の都道府県の役割は極めて限定されたものとなろう。しかしながら、なお基礎的自治体では担えない分野もあり、今後も広域自治体が担うことが望ましい分野もある。その際、従来の都道府県ではその機能が不十分と思われるものもある。

 現在の都道府県の領域は、明治以来ほとんど変更されていない。一方、近時においては交通や通信などの手段が格段に進歩しており、人々の活動領域は大幅に拡大している。生活圏や経済圏が広域化しているにも拘わらず、行政サービスだけが旧態依然とした区割りのもとで提供されており、これが様々な障害を招いている。

 こうした観点から、例えば全国を「北海道」、「東北」、「関東」、「北信越」、「東海」、「関西」、「中・四国」または「中国」、「四国」、「九州」の8つないし9つの道州に分けて、広域行政を実施するのが適当である。また、これらのブロック形成にあたっては、人流・物流を中心として、地域住民の意思を尊重しつつ、まずは従来の県を柔軟に連合・統合することにより、最終目標である道州行政体に到達するべきである。このような道州行政体が全国で確立した段階において、都道府県は完全に廃止されることになる。

 この道州行政体の役割は、基礎自治体だけでは対応できないような、または道州体で実施した方が効率的な地方公共財の提供を担うものである。具体的には、産業政策、治山治水などの地域環境政策、広域道路などの交通政策、港湾事業などの海域管理、防火・防災などの安全政策、地域総合計画をはじめとする各基礎自治体の総合調整などを担当することが考えられる。首長は、住民による直接選挙で選任され、議会は各基礎自治体から選出された議員によって構成される。

 また、最終目標である道州行政体への到達に向けては、目標年次として今後10年以内の実現を目指すことを期待する。

  C地方議会のあり方

 放漫な地方財政については、首長をはじめとして地方議会の議員などにも責任がある。これまでは「入るを量りて出ずるを制す」の発想がほとんどなく、親方日の丸のもと国や自治体から如何に予算を獲得するか、そして、地元に如何に利益をもたらすかという「タックス・イーター」の考え方が支配的であった。これでは国も地方も破産するのは、当然の帰結である。新しい道州体や基礎自治体の議会では、まず、議員定数について、従来に比べ大幅な削減を図るべきである。そのうえで、ナイター議会・サンデー議会の開催をはじめ、納税者の太宗を占める給与所得者の代表が議員として参画できる仕組みを用意するなど、「タックス・ペイヤー」の意見が十分に反映されるような制度の構築が望まれる。

 また、当然のことながら、「タックス・イーター」を許容してきた住民にも大きな責任があり、住民サイドの意識改革も併せて行われることが重要である。

(2)税制の改革

    @当面の改革

    (イ)地方交付税の段階的廃止

     地方交付税システムは、わが国の護送船団方式そのものであり、地方の自助努力を損なうものである。競争を通じた地方の活性化を促進するため、当面は地方交付税を地方自治体の自立を促す方向で大幅に削減を図り、長期的には撤廃されるべきである。

     なお、地方債の発行については、現在は地方債の償還財源が地方交付税で手当てされるなど、地方債の発行に歯止めをかけたり、地方債が市場で適切に評価されるというメカニズムがなく、地方自治体のモラルハザードをもたらしていることから、早急な改革が必要である。

     また、現在の地方財政は、3割自治に象徴されるように、自主財源の比率が非常に低い状態にあることから、地方自治体においてより自主財源を高める努力を促すとともに、国から地方へ偏在性の少ない税源の移譲等を進めていく必要がある。

    (ロ)地方税と国税の比率逆転

 現在の税収比率は、国が6割、地方が4割であるが、地方交付税や補助金の廃止と税財源の移譲、地方自治体の課税努力、小さな政府の実現などを通じた歳出削減等により、国と地方の税収比率が結果的に逆転する程度に地方税収を充実させることが必要である。また、税源移譲の税目としては、消費税と個人所得税の一定割合を地方税に切り換えることによって調整するべきである。

    A根本的な改革(道州制導入時)

 道州制導入時点では、税制の根本的な改革が必須となる。国税と地方税(道州税・市税)については、国と地方の役割分担やナショナルミニマムの水準についてコンセンサスが得られた段階で、税の統廃合や国税から地方税への移管等税制の抜本的な改革が必要である。その際、地方における財源確保において自主努力が報われる仕組みを用意するとともに、自己決定・自己責任に基づく財政運営と住民の受益と負担の明確化を推進していくためにも、地方の課税自主権は大幅に拡充すべきである。

 なお、ナショナル・ミニマムの水準を保障するためにも、競争や自助努力を阻害しない範囲で、国による現在の地方交付税とは性格の異なる新たな道州間の財政調整の枠組みは必要である。

 また、新しい道州制のもとで地方債が発行される場合には、道州や市の自己決定によって発行され、その償還については道州や市の自己責任においてなされる仕組みにすべきである。

4.商工会議所の責任と役割

(1)広域行政と商工会議所

  自立し得る基礎自治体の確立と道州制が実現すると、国と地方を通ずる行政機構の簡素化による住民負担の軽減や地方における自己決定による独自事業の拡大と財政の一元的運用による効率的・効果的な事業の実施など様々なメリットがもたらされるが、商工会議所にとっても大きな影響を及ぼす。特に、自立し得る基礎自治体と道州は特色ある地域開発やそのために必要な道路・港湾・空港の整備について独自の判断で実施できることになる。このことは各地域の商工会議所の提言や要望が地域レベルでダイレクトに反映できることを意味する。

 従って各地の商工会議所は、独自にあるいは関係する商工会議所間の連携と協調による政策提言と実施のための活動を充実させていくことによって実現力を強化し、地域における存在意義を高めていくべきである。

(2)商工会議所の使命

  これからはグローバルな競争の中で、個性ある魅力あふれる地域づくりを進めていかなければ地域が生き残っていけない時代を迎えている。しかしながら、現状は中心市街地の衰退、企業の廃業や倒産の増大ならびに製造業を中心とした海外立地の増大など、様々な地域の空洞化が進展してきており、このままでは地域の活力がますます減退していくことが危惧されている。

 このためには、まちづくり、産業づくり、そしてこれを推進していく人づくりなどについて、産学官そして市民といった地域の総力を挙げた地域活性化に向けた取り組みが求められており、商工会議所はこうした取り組みの中核となって、地域の再生ひいては日本の再生を実現していかなければならない。

(3)商工会議所自らの合併の推進

 自立し得る基礎自治体の確立と道州制を目指すからには、市町村合併の推進が不可欠であるが、商工会議所に課せられた使命を達成していくためにも、民間団体である商工会議所自らが、組織・活動基盤の強化や事業の効率化のため、市町村合併の動きに先駆けて、あるいは併せて、商工会議所同士や他の経済団体との広域連携や合併について積極的に取り組むべきである。

 その際、これを実現していくためには組織のトップである会頭のリーダーシップの発揮が極めて重要である。また、合併を促進するための商工会議所法の改正などの法整備や、合併による不利益を除去するための経過措置等について、早急に検討を進めるべきである。

 また、当然のことながら、商工会議所は、合併を議会・行政当局や市民に働きかけるなど、市町村合併に積極的な役割を果たしていくべきである。

(4)行政サービスの受け皿等地域社会への貢献

 国・地方自治体は、その行政機構のスリム化や事業の効率化を図るため、行政サービスのコスト分析を行い、経常収支が黒字の事業については事業のアウトソーシング化やPFIの導入等により民間に任せるものは民間に移譲していくべきである。

 その際、市の制度融資や経営相談等の中小企業対策や、まちづくり計画や地場産業等振興策の策定・実行、産学官連携事業等の地域振興策など商工会議所として担うに相応しい事業については、商工会議所自身が積極的に受け皿となり、地域社会に対して貢献していくべきである。

(5)魅力ある地域づくりへの取り組み

  産業振興や中心市街地の活性化など豊かで魅力ある地域づくりについて、商工会議所は地域総合経済団体として中心的な役割を果たすべきである。このため、商工会議所はこうした役割を担うため、会員に役立つ収益事業の開拓など自己財源の充実に努めるとともに、スタッフの教育を充実し、商工会議所自身の企画力を高め、中小企業や市民の良き相談相手になれるよう体制を整備すべきである。

 また、全国商工会議所のネットワークをフルに活用して、地域の将来像を示す各種計画・ビジョンづくりにイニシアティブを発揮していく必要があり、商工会議所同士の広域的な連携事業を推進したり、NPOなどの市民グループとも連携を強化するなど、他地域・他団体との連携に取り組むべきである。


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