少子高齢化、経済グローバル化時代における 外国人労働者の受け入れのあり方について

平成15年9月17日
日本商工会議所


 経済のグローバル化が進み、国境を越えた人の移動が活発化する中で、国際的な競争はかつてなく激しくなっている。大競争時代の到来に伴い、経営・研究・技術分野における高度な技術・知識を有する人材の獲得競争が世界的規模で激化しており、高度人材外国人労働者の受け入れ促進は、もはや一私企業の隆盛に係わる問題ではなく、イノベーション(技術革新)を通じた一国の産業・経済の活性化、持続的成長のための重要戦略として認識されている。
 また、わが国においては、世界に例のないスピードで少子高齢化が進んでおり、2006年には人口のピークを迎えるという見通しもある。雇用情勢が極めて深刻な現在ですら、職種や地域によっては必要な人材を確保できない分野があるが、今後の急激な労働人口の減少により、「ものづくり」や看護・介護など、わが国の経済社会や国民生活にとって不可欠な産業分野においても労働力不足が継続し、支障をきたすことが大いに懸念される。高齢者や女性の社会進出促進策と平行して、いわゆる単純労働に携わる外国人労働者の受け入れ促進策が真剣に検討されるべきゆえんである。
 わが国の現状をみると、専門的・技術的分野の外国人労働者については、その受け入れに積極的であり、受け入れ人数に制限を設けていないにもかかわらず、約10万人と低水準にとどまっており、高度人材外国人労働者の確保に関して欧米諸国に大きく遅れをとっている。他方、単純労働者の受け入れについて政府は、国内の労働市場に係わる問題をはじめとして日本の経済社会・国民生活に多大な影響を及ぼすことを危惧して、ブラジルなどに移住した人やその子孫らを除いては厳しく規制している。
 そこで、当所は、少子高齢化、経済グローバル化時代において、わが国の産業・経済の活性化ならびに持続的成長に資するとともに、経済社会や国民生活に欠かせない重要な産業分野における労働力不足解消に向けた外国人労働者受け入れのあり方について、下記のとおり提言する。



1.外国人労働者の受け入れのあり方

(1) 高度人材外国人労働者の受け入れ

 国際競争の激化に伴い、IT 技術者などの専門的・技術的労働者に対するニーズが世界的に高まったため、欧米諸国では、高度な技術・知識を有する人材の受け入れ促進のための制度改正を行うなど、積極的な受け入れ政策を展開している。
 日本では、現在、就労目的の在留資格として14種類の専門的・技術的分野を設けて、外国人労働者を受け入れている。政府は、専門的・技術的分野の外国人労働者については、経済社会の活性化や一層の国際化を図る観点から、その受け入れに積極的であり、受け入れ人数に数量制限を設けていないにもかかわらず、当該分野における受け入れ人数は約10万人(2001年現在。「興行」「技能」を除く)にとどまっており、高度人材外国人労働者の確保に関して欧米諸国に大きく遅れをとっている。
 この大競争時代を勝ち抜くためには、わが国における人材育成対策をさらに充実するとともに、高度人材外国人労働者の受け入れについては、これまでの発想を大転換し、受け入れを大幅に拡大すべきであり、中小企業といえども、優秀な外国人労働者を活用して製品やサービスの高付加価値化を図ることが必要である。
 そのため、高度な技術・知識を有する外国人労働者の受け入れ促進に向け、資格の相互認証の積極的拡大、在留資格認定要件の緩和、社会保障協定の締結促進、医療保険制度の見直し、留学生に対する支援の拡充、労働・住環境の整備等を推進すべきである。

@ 資格の相互認証の積極的拡大
 資格の相互認証については、近年、わが国は数カ国とIT技術者資格の相互認証を行い、それに伴う在留資格要件を緩和した。2001年には、インド人IT技術者の受け入れ促進と、日印間のソフトウエアビジネス交流の活性化を図るため、両国のIT技術者試験の相互認証とそれに伴う入国規制の緩和を行った結果、インド人IT技術者の受け入れが促進された。
 一方で、「法律・会計業務」などの専門的分野については、2国間・多国間の相互認証は進んでいない。欧米諸国では、IT分野をはじめ、法律、会計、エンジニアなど、自国の競争力強化につながる分野について資格の相互認証を積極的に進め、優秀な外国人労働者の獲得を図っている。わが国においても、自国の競争力強化につながるような専門的・技術的資格について、各国との相互認証を積極的に拡大すべきである。

A 在留資格認定要件の緩和
 在留資格の一つである「企業内転勤」については、外国にある系列企業等からの転勤・出向は認められているものの、その必要要件として、他の在留資格である「技術」または「人文知識・国際業務」等と同様の基準を満たさなければならず、教育訓練や能力開発を目的とした転勤等は認められていない。優秀な人材の国際的労働移動をさらに活発化させるため、こうした要件を緩和するとともに、在留期間を延長するなど、専門的・技術的外国人労働者に係わる入国・在留制度についてはできる限り合理化・簡素化すべきである。

B 社会保障協定の締結促進
 公的年金制度については、大部分の国で「当該国で就労している者」を対象者としている。そのため、例えば、日本で就労している外国人は、日本の公的年金制度に加入して保険料を負担するとともに、母国における受給権を確保するために、母国の年金保険料も払い続けなければならない。さらに、赴任期間が短期間である場合には、赴任国における年金の受給権は発生しない場合が多く、赴任国の保険料はいわば掛け捨ての状態になっている。
 この問題を解決するため、欧米諸国は社会保障協定を締結し、短期滞在者については、赴任国における年金制度の加入義務を免除し、保険料の二重払い問題等を解消している。米国は、すでに19カ国と社会保障協定を締結しているが、日本はドイツ(2000年締結)とイギリス(2001年締結)の2カ国にすぎない。先ごろ、日米政府間で、二重負担の回避(短期滞在者)と加入期間の通算(長期滞在者)を内容とする協定について最終合意に達したが、国際的な人材移動を活発化させるためにも、わが国は、早急にその他の国とも協定を締結すべきである。

C 医療保険制度の見直し
 現行の社会保険制度では、永住を前提としていない外国人に対しても健康保険と年金・介護保険のセット加入を義務付けており、外国人の医療保険加入を妨げる要因の一つになっている。このため、セット加入義務の緩和や、年金・介護保険部分の納付額を帰国時に返納する制度の創設等を検討すべきである。また、国民健康保険制度は、運営における自治体間格差や保険料の滞納など様々な課題があるため、将来的には、外国人向けの医療保険制度の創設について検討すべきである。

D 留学生に対する支援の拡充等
 留学生を通じた人材獲得・育成は、わが国の社会慣習や文化・言語に対して親近感を抱いている人材を得るという観点から極めて望ましい方法である。わが国への留学生をさらに増加させるため、就学中および卒業後の就職時やインターン等に関する制度的な障壁を可能な限り低くするとともに、奨学金等の充実や低廉な留学生宿舎の確保等、生活環境面での支援等を拡充されたい。
 さらに、地方勤務をためらう日本人の代わりに、優秀な外国人留学生OBを開発要員として採用し、技術開発力を高めている先進的な中小企業もすでにあるが、中小企業で活躍することを希望する留学生をデータベース化し、地方の中小企業と結びつける就職支援事業を創設されたい。その際は、民間のノウハウや人材を活かした事業が展開できるよう、商工会議所をはじめとする民間機関を最大限に活用すべきである。

 (2) 外国人単純労働者の受け入れ

 わが国政府は、いわゆる単純労働に携わる外国人労働者の受け入れについては、国内の労働市場に係わる問題をはじめとして、日本の経済社会・国民生活に多大な影響を及ぼすこと等を危惧して、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応することが不可欠であるとの方針を明らかにしている。
 しかしながら、世界でも例がない少子高齢化の急速な進展に伴い、将来労働力が減少することは確実であり、「ものづくり」や看護・介護など、わが国の経済社会や国民生活にとって不可欠な産業分野においても労働力不足が継続し、支障をきたすことが大いに懸念される。そのため、若者の勤労観・職業観の醸成政策の拡充や、高齢者や女性が活躍できる環境づくりと平行して、単純労働者の受け入れ促進策について真剣に検討すべきである。

@ 「外国人研修・技能実習制度」の拡充
 わが国の単純労働者の受け入れについては、ブラジルなどの日系2世、3世等を除けば「外国人研修・技能実習制度」によるものに限定される。同制度では、研修生は最長3年(研修1年、技能実習2年)の滞在が認められている(平成14年度の新規受け入れ数は約4万人)が、受け入れ人数枠や技能実習移行対象職種が限定されていること、研修期間中の夜間を含むシフト勤務は実施できない等の問題がある。
 このため、在留期間の延長、受け入れ人数枠や技能実習移行対象職種の拡大、研修中の夜間を含むシフト勤務の許可、研修生の再入国制度の創設、受け入れ手続きの簡素・迅速化等、近隣諸国や国内企業のニーズに沿った運用緩和・拡充を図り、使いやすい制度に改善すべきである。
 なお、制度の厳正な運用を確保するため、不適正な受け入れを排除し、受け入れ団体・受け入れ企業の適正化を図ることが必要である。

A 新たな制度的枠組みの創設
 わが国には不法就労者が約30万人もいるという現実があるが、こうした状況を放置せず、諸外国の例も参考にして、混乱が生じないよう一定の管理の下に外国人単純労働者を受け入れる新たな制度的枠組みを創設されたい。
 例えば、わが国と同様に「ものづくり」を中心に経済発展を遂げてきた台湾においては、雇用に影響がないこと、移民にさせないこと、治安を乱さないこと、産業高度化の妨げにはならないことを基本的な条件に、二国間協定に基づき、重大公共工事、重大投資製造業、看護・介護などの分野で約30万人の単純労働者を受け入れている。
 単純労働に携わる外国人労働者の急激な増大は、社会不安を引き起こす、あるいは、わが国産業構造の高度化を阻害するなどの議論もあるが、わが国においても、台湾方式による単純労働者受け入れ制度を導入することを真剣に検討されたい。その際、今後、労働需要の拡大が予想される製造、建設、林業、観光、看護・介護、メイドなどの分野については、二国間協定に基づき、受け入れ業種・職種や人数の上限など一定の条件を課すとともに、滞在期間中の管理の徹底などを条件に、受け入れを検討すべきである。
 仮に、すぐさま全国一律の制度として導入することが著しく困難であるならば、当面、構造改革特区制度を利用して、台湾方式による受け入れ制度を導入すべきである。
 なお、日本とASEAN各国では、経済連携協定の締結に向けた政府間協議が進められており、わが国に対しては、ビザ発給要件の緩和など人の移動の円滑化に対する要望が強く寄せられている。例えば、フィリピンからは、看護師・介護士等の日本での就労について要請があるが、わが国が今後急速な少子高齢化の道を歩む現実を見据え、日本語でのコミュニケーション能力や看護水準を含めた適切な能力の確保を前提として、その受け入れに道を開くべきと考える。

 (3) 外国人労働者の受け入れに係わる諸課題への取り組み

 わが国の諸制度は、移民を含めて、外国人労働者およびその家族が長期間在留し、生活することを念頭においたものとはなっておらず、外国人の受け入れを推進するためには、生活・教育面における受け入れ体制の整備をはじめ、社会保障制度のあり方にいたるまで、経済社会や国民生活に係わる様々な課題について、今後、国民各層を交えて議論し、そのコスト負担のあり方も含めてコンセンサスを形成していかねばならない。
 例えば、生活面においては、賃貸住宅への入居や宗教活動への理解の促進、子女教育に関しては、インターナショナル・スクールの整備や公立学校の受け入れ体制の整備などの課題がある。社会保障制度については、社会保障協定の締結を促進するとともに、健康保険と年金・介護保険のセット加入義務の緩和や、年金・介護保険部分の納付額を帰国時に返納する制度の創設、外国人向けの医療保険制度の創設等について検討すべきである。
 さらに、経済社会の活性化を維持するため、永住を前提とした移民を受け入れ、一定規模の人口を確保するという選択肢も考えられるが、その是非については、まずは、上述した高度人材外国人労働者や単純労働者の受け入れについて、新たな制度的枠組みの創設や改善を行い、その実績や効果等を十分見極めたうえで、さらに国民生活への影響や社会的コストの負担問題等も含めた幅広い観点から議論することが必要である。

 2.商工会議所の役割

 地域に根差した総合経済団体である商工会議所は、会員の多くを中小企業が占めており、これまで「外国人研修・技能実習制度」においても受け入れ団体となるなど、深刻な労働力不足に悩む中小企業に対する支援を行ってきている。
 また、日系人などの外国人労働者が多数居住している浜松市、豊田市などの14都市では外国人集積都市会議を設立し、商工会議所など産業界の協力の下、外国人労働者との共生を目指して様々な課題の解決に取り組んでいる。
 少子高齢化、経済グローバル化時代においては、これまで以上に外国人労働者の受け入れに対するニーズが増大することは明白であり、地域中小企業の商工会議所に対する期待はますます高まるであろう。就労、教育、年金、医療など、外国人労働者の受け入れに係わる諸課題は多岐にわたっており、行政が直接係わるべきものもあるが、行政と企業との間の調整機能や、外国人労働者と企業の間の仲介機能など、商工会議所が担うべき役割は大きなものがある。商工会議所においては、今後とも地域の実情を十分踏まえて外国人労働者受け入れ問題に取り組むことが求められている。

以 上

(参考)台湾における外国人労働者の受け入れについて


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