平成15年5月23日 わが国経済はバブル崩壊後デフレが長期化し、未だ景気回復の兆しが見えない。 むしろ、デフレの進行が不良債権の増加、金融機関の資産劣化を通じて、 企業への貸し渋りや金融不安を増幅し、デフレスパイラルへの道を辿っている。 株価水準も、最近では日経平均が8千円前後と約20年前の水準にまで落ち込んでいる。 このような状況下で、企業の財務内容を示す会計の新基準の1つとして、2002年 3月期から長期保有有価証券について時価会計が導入された。 この評価については、会計基準として妥当かどうか、 また長期デフレ下にある時期に導入することが適当かどうかについて、大きく意見が分かれている。 また、2006年3月期からは固定資産の減損会計が導入予定であり、 これは2004年3月期から早期適用が可能であるため、 デフレをさらに加速する要因になるのではないかとの懸念がある。 このような基本的認識を踏まえ、当検討グループでは、 長期保有有価証券の時価評価および固定資産の減損会計について、 その妥当性と採用した場合の影響について検討を重ねてきた。その結果を下記のとおり報告する。 記 ○長期保有有価証券の時価評価については早期に撤回すべきである。強制評価減は凍結す べきである。 ○固定資産の減損会計については、対象となる資産、導入時期等について、さらに慎重に 議論すべきである。 <検討内容>1.時価会計は企業実態を正しく反映するか 企業は、ゴーイングコンサ−ンとして、継続して事業活動を行う組織であり、 長期的視野に立った経営が要求される。 そのなかで長期保有有価証券は、売買目的有価証券とは異なり、 長期的な保有を前提とする固定資産の1つとして位置づけられている。 一方、株価は、企業の業績のみならず、その時々の景気動向や金融政策、 さらには市場取引参加者の将来見通しの差異や投機的思惑など、 さまざまな要因によって決定され、かつ、日々大きく変動する性質を持つものである。 以上のことから、企業の実態を正確に映す鏡としての使命を担う財務会計において、 長期保有有価証券を期末の一定期間または一時点での市場価格で評価することは、 果たして企業の実態を正しく表すものかどうか、極めて疑問である。 企業の健全性確保の見地からしても、例えば、 バブルの絶頂期に時価会計を採用した場合を想定してみれば、 時価会計が企業の健全性の尺度となるとは言い難いことは明らかである。 なお、ディスクロージャーの観点からは、 企業の資産情報に関する時価情報を適宜提供することで足りると考えられる。 2.時価会計が国際基準であるとの誤解 長期保有有価証券に関して時価会計を導入しているのは、 先進国では米国と日本ぐらいのものである。 ただし、米国では、わが国のような株式持合い構造がなく、 事業会社も銀行も基本的には他社有価証券を保有していない現状を見ると、 実際には適用されていないに等しい。 なお、大恐慌時代の米国では、1930年代に、 銀行経営の健全性を確保するために株式保有を禁止する一方で、 金融機関に対する時価会計の適用を停止し、 金融機関の自己資本を市場価格から遮断することによって、 金融システムを安定させたとされている。 また、EUにおいても、2005年に国際会計基準の採用により、 時価会計を導入する方針と言われているが、 いまだに加盟国による議論が戦わされており ドイツ等の景気低迷のなかでその実現が危ぶまれるとの観測もある。 したがって現在のところ長期保有有価証券に関して 実質的に時価評価を適用しているのは日本だけとなる。 3.わが国特有の株式需給構造による株価下落圧力 わが国には長期保有を前提とする銀行と企業の株式持ち合いの構造や 企業グループ内で株式を保有しあう慣行が定着してきたが、 今日では金融機関に対する強制的な持株制限により株式の持ち合いの解消が進められており、 企業の年金基金代行返上による株式処分などの動きもあって、 株式の市場での売り圧力は今後も強まることが予想される。 一方、資産デフレが進む中従来から株式市場における個人投資家のウエイトが 低いわが国にあっては買い需要は薄く、供給過多の構造が続いている。 以上のように現在の株式市場にはデフレ進行による企業業績の低迷に加えて、 株式需給バランスの悪化という構造的要因もあり、明らかな株価の押し下げ圧力が働いている。 このような状況のもとで長期保有を前提とする資産を時価で評価することは、 企業の財務内容が実態以上に悪く会計表示されることになり、 その結果として、特に金融システムのさらなる不安定化を招くことが懸念される。 4.時価会計導入による企業、特に中小企業の資金繰りへの影響 株式市場が低迷する今日の状況で、株式を時価評価すれば、 株式の含み損がさらに大きく表示されることになる。 このため、特に自己資本の減少によってBIS基準を達成できなくなる事態を 恐れる金融機関は基準達成のために資産圧縮等を図ろうとするので、 いわゆる貸し渋りや貸し剥がし等を助長することになり、 それでなくても不況下で資金繰りに苦しんでいる企業、 特に多くの中小企業が一層の資金繰り難に陥り、 倒産するという事態に至ることが懸念される。 5.会計基準変更に関する政策的判断の必要性 これまで見てきたように、長期保有有価証券において時価会計を導入することは、 会計理論上にも問題は多いが、日本経済が深刻なデフレに直面し金融機関の持ち株制限など 株式市場における売り圧力が過度に高まっているなかで無理に時価会計を導入することは、 資産デフレをさらに加速するのみならず、金融システムの不安定化を助長し、 貸し渋り、貸し剥がしを強める原因となるので時期としても最悪のタイミングである。 本来企業の命運や日本経済全体の帰趨を決定づけるような重要な会計基準の導入、 変更にあたっては、経済情勢や導入の影響等を見極めながら、 政治が責任を持って導入の是非やタイミングについて判断を下す仕組みとすべきである。 6.固定資産の減損会計の適用凍結について 2006年3月期からの適用に先立ち、2004年3月期から早期適用が可能とされているが、 日本経済に大きな打撃を与えている資産デフレの現状を考えれば、 少なくとも不況を脱し、金融システムが安定するまで適用を凍結し、 実体経済の動向を見守りつつ、対象となる資産、 導入時期等について幅広い検討を行うべきである。 以 上 |