電源立地を地域振興の起爆剤とするために
(会議所ニュース、電源特集第2号:平成13年3月1日号)
日本商工会議所は平成13年1月16日に東京で、平成12年度電源立地商工会議所連絡調整協議会を開催した。会議はまず、財団法人日本立地センターの吉野隆治常務理事から「電源立地を地域振興の起爆剤とするために」と題した講演が行われた。その後、柏崎商工会議所(新潟県)の内藤信寛専務理事、御坊商工会議所(和歌山県)の久保行徳専務理事から、「電源立地の地域振興事例」と題して事例発表があった。なお、平成12年12月1日に成立した「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法」の概要は下記のとおり。
○電源立地商工会議所連絡調整協議会(※)の会合の模様
・地域振興の起爆剤に (財)日本立地センター常務理事 吉野隆治 氏
・「陸の孤島」の脱却を 柏崎商工会議所専務理事 内藤信寛 氏
・事業主体の明確化必要 御坊商工会議所専務理事 久保行徳 氏
※電源立地商工会議所連絡調整協議会とは
電源立地推進地域の現状や、地域振興事例などについて、各地の意見や情報の交換などを行うことを目的に、平成10年度から日本商工会議所に設置された。メンバーは電源立地関係地域の14商工会議所(青森、むつ、能代、新潟、柏崎、金沢、珠洲、敦賀、舞鶴、御坊、松江、柳井、阿南、川内)。
○原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法の概要
○【寄稿】電源立地による地域振興とは何か(下)
○電源立地商工会議所連絡調整協議会の会合の模様
地域振興の起爆剤に
(財)日本立地センター 常務理事 吉野 隆治原子力立地市町村の「人口」、「商業販売額」、「財政力指数」などが、発電所建設の着工年から増加傾向となり、全国平均や県内平均より高い伸び率を示していることから、発電所の立地による地域への波及効果は高いことがわかる。
原子力立地地域には、電源三法交付金制度など地域振興のためのさまざまな支援措置が講じられており、こうした支援措置をいかに活用するかがポイントとなる。
今後の地域振興策は、時代と地域のニーズに合った展開が大切である。これまでの地域振興策は、人口増加と経済発展に目標を据えていたが、少子化などの要因で人口増加は困難であり、これからは健全な次世代社会をどうつくるかというところに焦点を据えていく必要がある。
電源立地を今後、地域振興の起爆剤とするためには次の4つの視点を重視すべきである。
(1)地域活性化事業は人材づくりだと考えられる。地域を活性化するため、若い世代を活用して持続的に地域おこしが行うことが大切であり、次世代の担い手となる人材を補助金等の活用によって育成することが重要である。
(2)企業誘致は地域振興策の最も有効な手段であるが、外部からの企業誘致があまり望めない現状では、既存立地企業をどう育成していくかがより大切となってきている。電源立地地域は電力料金の割引制度などを活用し、他の地域にはないメリットを前面に押し出した事業環境の整備をはかる必要がある。
(3)設備投資が低廉で済む貸工場制度など、インキュベーション施設などを整備し、地域産業の育成につながる企業の新規事業展開や起業への支援などを行うことが大切である。
(4)高齢者対策や育児支援を完備し、老人や女性、子供が安心して暮らすことができる福祉完備地域の実現を目指すべきである。電源三法交付金制度を活用すれば地域の福祉施設の整備が十分できることに留意する必要がある。
<講師の話に熱心に耳を傾ける協議会委員>
「陸の孤島」の脱却を
柏崎商工会議所 専務理事 内藤 信寛首都圏のエネルギー供給源の要となっている柏崎市は、電源施設を立地する以前は地形的関係から「陸の孤島」と言われていたが、電源施設着工以来、人口の増加、雇用の増大、市民所得の向上などの効果が見られる。特に財政面では、交付金・固定資産税等を含めると約1,300億円の収入増があり、それを道路整備、海岸環境整備や産業振興等に活用した。
この中で、最も有効な地域振興策は、市負担事業として実施した田尻工業団地と市内2大学(新潟産業大学・新潟工科大学)の設置である。田尻工業団地は低廉な分譲価格により、外部企業の誘致と大手有力企業の県外移転防止に成功。また、大学の設置は、約3,000人の学生と200人近い教授陣の人口増加を生みだし、柏崎を活気ある街へと変貌させた。柏崎市は今では、新聞社などの調査で「住みやすい街」、「起業しやすい街」の上位にランクされている。
これからの柏崎市の課題は、地域産業自立のための「自力できる街づくり」を推進していくことである。このため、エネルギーと環境を首都圏の住民と考える交流の場「環境共生公園」の整備、人の往来を活発化させる「ミニ新幹線」の整備などを盛り込んだ「21世紀産業構造戦略プラン」を市・商工会議所・地元金融機関の3者で策定している。
事業主体の明確化必要
御坊商工会議所専務理事 久保 行徳材木と紡績を地場産業に抱える御坊市では、人工島内に60万kWの火力発電所が3基立地している(第1火力発電所)。今後、第2火力発電所の立地が見込まれているが、現在は着工延期という状況にある。第1火力発電所設置の効果としては、交付金などを活用した福祉センター・武道館・図書館の建設や漁港施設・農地事業・教育施設の充実などがある。
地域振興として最も成果があったのは、農業と漁業関係である。農業では、団地園芸総合センターの設置により、非常に高度な栽培技術の指導が受けられ、カスミソウ、スイートピーやサヤエンドウの出荷が日本一になるなど多大な効果があった。漁業関連では、交付金を活用して貯蔵施設や燃料タンクを設置した。また、人工島周辺のテトラポットには、伊勢エビやアワビなどが繁殖し、有用な資源となっている。
反面、産業関係では健康食品事業への進出失敗など、有効な地域活性化策がはかれなかった。また、固定資産税の増収により建設した公共施設が赤字運営という事態に陥っており、市財政は厳しい状況にある。
電源立地の地域活性化策の実施に当たっては、(1)振興事業の主体がどこであるか明確にする、(2)長期的な方針を立てる、(3)主体メンバーの意識・知識の向上をはかる、(4)実施事業の収益性を重視するなどの視点が大切である。
○原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法の概要
※上記のフローチャートはPDF形式で取り出すことができます。【PDF形式】
【寄稿】電源立地による地域振興とは何か(下)
内発型の地域おこしを〜高柳の事例から〜
柏崎商工会議所 専務理事 内藤 信寛周辺市町村にも、電源三法交付金制度の中核を占める電源立地促進対策交付金は交付(一定の基準により)されているし、その他の地域振興や地場産業育成のための補助金、各種支援制度も手厚く整備されている。これら三法交付金などを有効活用してユニークな地域おこしを行っている高柳町(新潟県刈羽郡)の事例を紹介したい。高柳町は人口わずか2,600人。柏崎市の中心からは、車で30分の距離にあるが、冬は3メートルを超す豪雪地帯で、新潟県有数の過疎地域である。それだけに住民の危機感は強く、これまでも過疎に歯止めをかけるべくさまざまな対策がとられたが、なかなか成果はあがらなかった。
一方で、柏崎刈羽原子力発電所1号機運転開始の昭和60年頃から、国の電源立地関連の助成制度を導入し、本格的な地域おこしの研究、検討が始まる。町をあげての取り組みである。そして出た結論が「田舎」の特性を生かし、都市住民との交流による農山村体験滞在型観光を促進する、名付けて「じょんのびの里」づくりである。「じょんのび」とは「寿命が伸びる」がなまったこの地方の方言で、この土地でゆったりのんびりしようとの意味である。
過疎から逃避するのではなく、逆に「過疎」を資源として磨きあげ、「日本の田舎」を目指そうというユニークな発想である。都会にあるものが、何もない。しかし、都会にないものが、ここにはいっぱいある。虫の声、鳥のさえずり、木々をわたる風、田んぼ、畑、茅葺き屋根・・・。まさに日本昔話の絵本に出てくるような田舎である。高柳町は「田舎」を前面に出して、都会と農山村の交流を戦略的に開始したのである。
昭和63年から始まったじょんのび村構想関連事業では、山村の景観や修景の保存や散策道路の整備、交流施設づくりなどに電源三法交付金17億円を含む約57億円が投入された。具体的には、町の中心にコア施設の「じょんのび村」を設置。ここにはホテル、食堂、温泉、農場、貸別荘、民芸品の手作り工房、物産販売所が整備されている。また点在する集落ごとに、サテライト施設として、スキー場、キャンプ場、茅葺き農家(宿泊体験施設)などが整備されている。施設の運営は、じょんのび村を第三セクターの株式会社が行い、サテライト施設はそれぞれの集落でボランティア的に行うなど地域ぐるみの取り組みが実践されている。平成元年には、若者グループによる手づくりイベントである幻想的な「狐の夜祭り」が生まれ、ソフト面の充実もはかられている。じょんのび村の利用客は年間15万人を数え、町の経済にも大きな波及効果を与えている。
<高柳町に古くから伝わる「狐の夜祭り」。毎年10月に開催され、 4000人の人出で賑わう幻想的な祭り。>かつて、地域振興策のトップは「企業誘致」であった。しかし現在では可能性はゼロに等しい。企業にとっては、世界一の高賃金国で、しかも都市と地方との格差も縮まった中、地方進出のメリットはない。地方分権の時代は地域間競争の時代でもある。競争に勝つためには本物で勝負するしかない。高柳町の事例のように、他力依存から脱却して、たとえ手間暇かけても自力による内発型の地域振興に取り組むべきではなかろうか。
わがまち「柏崎市」は電源三法交付金制度等を活用して、インフラ整備、大学誘致、中心市街地再開発など、自立できる都市型のまちづくりを進めている。柏崎市と高柳町。やり方は対称的であるが目指すところは同じ、「自立できる街づくり」に変わりはないと確信している。