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タイは不安定で安定した国(海外レポート・バンコク)

JCC事務局から見えるデモで崩壊した商業施設.JPG▼治安は問題なし

 5月末に2カ月にわたったデモが終了した後、日本から「タイはもう大丈夫か」との問い合わせをよく受ける。将来のことは誰にも分からないし、タイのことをすべて把握できるわけでもないため、確証を持って「大丈夫です」と答えることはできない。だが、バンコクで煙が上がった5月19日を最後に、特に大きな騒乱は起こっていないため、「きっと大丈夫です」と自信を持って答えている。

 実際、私たちバンコク在住者の生活は、デモが起こる前と全く同じ状況に戻っている。バンコク日本人商工会議所の向かいにあるショッピングセンターが、崩壊した姿をさらしていることを除いては。

 

▼好調なタイ経済

 デモによる混乱にも関わらず、タイ経済は好調そのものである。その中心は自動車産業で、2010年の年間生産台数は2009年の100万台から急回復し、過去最高だった2008年の140万台を上回り、160万台に達する見込みである。

 国内市場に加え輸出が好調なことも主な要因であるが、タイ政府のエコカー(低燃費の小型車)生産優遇策により、日産自動車が「マーチ」の生産を日本から移管するなど、生産拠点としての地位が高まっていることも理由として挙げられる。こうしたことから、自動車産業の雇用数も増加しているため、最近は他産業の会員から、「人手不足で困っている」との声をよく聞くようになった。

 

▼日本企業の進出も継続

 7月に入り、当商工会議所にタイへの新規進出について相談に来る企業も戻ってきた。新たな生産拠点を探す中小メーカー、タイの富裕層を対象とした流通業、サービス業などが特に目立っている。タイは、産業集積、道路などのインフラ整備、労働者の質、国内市場規模などの点で、周辺国にない長所を持っている。労働者の賃金は比較的高いものの、中国、インドなどに比べれば比較的昇給率が安定していることも注目されている。

 

▼今後、政治は安定するか

 このように、よい条件が揃っているとなれば、あとは「政治・社会の安定」だけが新規投資を計画する企業の関心事であろう。冒頭にも書いた通り、本件について誰も確実な答えをすることはできないが、今回のデモに対する在タイ日系企業経営者の多くに共通した2つの視点を紹介したい。     

 ひとつは、「今回のデモは、多くの要因により長期化、大規模化した」ということである。日本国内の報道では、今回のデモは、「タクシン派対反タクシン派の対立」「都市富裕層と農村貧困層の対立」という点を強調されることが多かったが、当地では、もっと多くの要因が絡まって今回の騒乱に至ったという見方をしている。逆に言えば、仮にこれらの要因のひとつが解消されたとしても、デモが起こる可能性はなくならない、とも言えるのである。

 もうひとつは「今回のデモの前後でタイ社会が大きく変化したわけではない」という見方である。日本では、「タイの政治の安定は失われた」「微笑みの国ではなくなった」という表現が用いられたようであるが、タイの過去をみても、騒乱、クーデターは繰り返し起こっており、「政治が安定した国」ではない。にもかかわらず、「政治が安定した国」と言われるのは、政治が混乱しても、騒乱はほどほどで治まり、基本的に民主主義が維持され、外資導入策をはじめとする経済政策の変化が小さいからであろう。

 タイは「不安定の中で安定した国」なのである。

 

(バンコク日本人商工会議所 事務局長 井上 毅)

 

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